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BORG100SWIIセット(改)


■購入のきっかけ

 メインで使っていた13cm反射赤道儀(タカハシMT-130E)が、アパートから運び出すのが面倒で稼働率が下がっていたので、気軽に使える鏡筒がほしいと思って購入。鏡筒・架台ともキャンペーンセールなどでB品(いわゆるアウトレット品)で入手しました。

■スペックとシステム

鏡筒:BORG100金属鏡筒
 (口径100mm 焦点距離640mm F6.4 1群2枚アクロマート フルコート 全長530mm 重量2.3kg)
架台:片持ちフォーク式赤道儀(赤経赤緯全周微動・経緯台兼用)
後付けした主なオプション:
 アストロ製7×50暗視野照明付ファインダー、接眼ヘリコイドS、眼視用絞り57φ、眼視用絞り52φ、EMS-S松本式正立ミラーシステム
全重量:約6kg

 鏡筒・架台をバラバラに購入したため、通常のBORG SWIIセットとは若干異なる構成になっています。大きな変更点は通常のセットに付属しているターレット式接眼部がなく、外付けのファインダーを使用していること。その他、接眼ヘリコイドSや眼視用絞りを取り付けて、観望重視のシステム構成を取っています。

現在の鏡筒まわりシステム構成(斜字はオプション品)。BORGシリーズ総合カタログ2002年度版のシステムチャートより作成

■最初の印象

 全重量が約6kgと軽く、気軽に取り回すことができます。ちゃんとした観望をするにはアパートの2階から外に運び出す必要があるのですが、軽くてコンパクトなので持ち運びが苦になりません。また部屋の中でも簡単に移動できるので、星の見える窓のそばに行ってお気楽観望も楽しめます。
 デメリットは架台が鏡筒の割に小さいため、特に高倍率時に揺れが気になること。100倍以上の倍率をかけると標準のヘリコイドMでは鏡筒のブレが大きくなり、とてもピント合わせがしにくくなります。
 短焦点アクロマートの色収差ですが、月や木星などの単位面積の明るい天体の場合は縁に青色のニジミが見られますが、土星あたりではあまり気にならない程度、星雲・星団の観望ならまず気になりません。星像はシャープな印象を受けました。

■機動性

屋内収納時の
BORG100SWII(改)セット

 とにかく軽くてコンパクトなのが最大の利点。普段は組み立てたまま三脚の足を縮めて部屋に置いてありますが、それほど場所を取りません。重量は片手で持ち運べる程度。屋外への出し入れの際も、狭い玄関やアパートの廊下を通り抜けるのが楽です。観望準備は外に持ち出して三脚の脚を伸ばすだけなので、気が向いてから5分以内に観望体制に入れます。
 これだけ手軽なので、街灯の影になる場所に移動しながら観望することが簡単にできます。街灯だらけの住宅地で暗い天体を見ようとすると、これは大きな利点です。
 オプションのバッグ(携帯ケースP)に鏡筒・架台の一式が収まるので、電車で職場に持っていき、夕方同僚と観望会をすることもあります。この際の分解・組立は、一切工具を使わずに行えます。携帯ケースPは、中仕切りがついていて三脚と鏡筒を分けて収納できますが、緩衝材は入っていないので衝撃には強くなさそうです。天体望遠鏡を手荒に扱うことはないのですが、万が一のことを考えると、簡単なクッションでも入っていたらと思います。自分が持ち運びをする際は、菓子包みなどに使う緩衝材で鏡筒をくるんでから収納するようにしていましたが、その後、バッグの内側に自分で緩衝材を貼り付けてしまいました。

■操作性

 架台が小さいため鏡筒が揺れやすく、高倍率時の視野の揺れが気になります。100倍以上の倍率をかけた際は、標準のヘリコイドMでは、ヘリコイドに触れる度に星像がグラグラ揺れて、慣れるまではカンに頼るようなピント合わせを強いられました。また極軸の高度角を調整するクランプをよほどしっかり締めておかないと、使用中に鏡筒がお辞儀してしまうこともあります。これは締付部がもう一回り大きければ大分違うと思うのですが……
 架台をがっしりしたものに換えれば上記のデメリットは解消されるのですが、そうすると重量がかさんで、持ち運びが不便になってしまいます。操作感の向上を狙った末に、外に持ち出すのがおっくうになっては本末転倒なので、兼ね合いが難しいところです。
 個人的には低〜中倍率で使用する分にはそれほど問題なく、高倍率では我慢できるかどうかギリギリの範囲だと思っています。

●接眼ヘリコイドS
 ピント合わせ時のストレスを改善するために導入したのが接眼ヘリコイドSです。36.4mm径ネジの取り付けで、使用アイピースは31.7mmφサイズです。回転ヘリコイドのためアイピース側が回転しますから、天頂プリズムなどと併用する際は、プリズムの後側に取り付ける必要があります。BORGではほぼ同サイズの直進ヘリコイドSというパーツも出していて、後述のEMS-Sとの相性も考えて、どちらにするか迷ったのですが、コプティック星座館の遊馬さんのアドバイスでこちらを使うことにしました。ヘリコイドの回転は直進ヘリコイドSよりスムーズなので、観望専用ならこちらの方が使い勝手がよいと思います。
 微妙なピント合わせが手元の軽いタッチでできるので、通常のヘリコイドMより合焦時の鏡筒の揺れが格段に少なくなります。低〜中倍率ではまず気にならず、高倍率時でも少し間をおけば収まる程度の揺れで合焦できるため、もはや欠かせないアイテムです。前記のコプティック星座館でB品を2,000円以下で入手できる(こともある)ので、MT-130用にも購入して使っています。
●片持ちフォーク式赤道儀
 辛口の評価をしている架台ですが、これは「10cmの鏡筒を乗せた場合」の話で、小さな鏡筒を載せた場合の使い勝手は良好です。宮内60mm屈折・自作77mm屈折を搭載した場合は、合焦時の揺れや鏡筒のお辞儀の問題は気になりません。小さな微動雲台に比べてつくりがしっかりしていますし、赤経・赤緯とも全周微動なので、部分微動の架台のように星を追いかけているうちにタンジェントスクリューがいっぱいになって巻き戻すような操作をしなくてすむため、取り回しが楽なのです。
 意外な欠点は、この形式の赤道儀に長い鏡筒を載せると、極方向が死角になってしまうこと。天の北極に近い方向に鏡筒を向けると、鏡筒が赤経体とぶつかってしまうのです。取扱説明書には「極軸を垂直に立てて経緯台にしてお使いください」と書いてありますが(この開き直りは好きです)、そうすると今度は天頂方面が死角になりますし、いちいちクランプをゆるめて締め直すのも面倒なので、極方向を見るときは極軸を思い切りオフセットして使っています。もともと写真を撮るわけではないので極軸も大体でしか合わせてませんから、それほど厄介なものではありません。
 そのうちBORG100mm用にはもう少ししっかりした経緯台を用意したいと思っているので、その暁には自作77mm屈折の架台にしようと思っています。おそらくBORG76/76EDにはちょうど良い架台なのではないでしょうか。

■光学系

 F6.7と比較的短焦点のアクロマートなので、購入前は色収差がどの程度なのか気になっていました。以下、いろいろな天体を見た印象です。

●月
 単位面積当たりの光度が明るいので、色収差の出やすい天体の一つです。満月近くの明るい月を見ると、縁の部分全周に青色のニジミが見られます。口径10cmともなるとそのままでは眩しいので低倍率ではムーングラスが不可欠になりますが、フィルターを使って減光した場合は、色収差は目立たなくなります。ムーングラスはミードの製品を使用しています。
●木星
 本体全周に青色のニジミが見られます。色収差は低倍率の方が目立たないのですが、10cmだと光量があるので、高倍率にした方が像が見やすくなります。縞の濃淡は分かりますが、それほどコントラストは高くない印象を受けます。試しにムーングラスをつけたら、暗くなりすぎてかえって見にくくなりました。秋〜冬のシーイングの悪い季節でしか見ていないので、状態によっては違う評価になるかもしれません。
●土星
 色収差はよく見ると分かりますが、さほど気になりません。本体の濃淡と、シーイングが良ければカッシーニの空隙が分かります。
●星雲・星団
 10cmの集光力を活かして、かなり暗い天体まで見ることができます。色収差は全く気になりません。普段は肉眼で4等星がやっとの自宅付近で、9〜10等程度までの星雲・星団をとらえてくれます。晩春〜秋にかけての60余りのメシエ天体を見ました。街灯を避けながら簡単に移動して観望できるのは、街中では有利な点です。

 基本的に星雲・星団対象に使うのがベストの鏡筒だと思いますが、月・惑星もそこそこ楽しめます。二重星を見ても星像は十分シャープに感じます。

●眼視用絞り57φ・52φ
 もともとBORGの鏡筒は内側に植毛紙が貼られているのですが、この絞りを入れると、バックの締まりが良くなったほか、木星の縞模様も見やすくなりました。縞が何本か見える、という程度だったものが、縞の濃淡が分かるようになります。土星もコントラストが向上するので見やすくなります。
 観望メインでBORGの鏡筒を使う場合は装着した方が良いと思います。絞り環を自作しても良いのですが、私はキャンペーンでまとめて安くなっていたときに購入してしまいました。通常の実売価格で1枚850円です。

■正立ファインダーを使う

 自宅付近では空が明るいので、MT-130で使っていた6×30ファインダーでは見える星が少なくて対象の導入に苦労していました。しかも倒立像を星図をひっくり返しながら見比べるので、天頂付近などは星をたどっているうちに訳が分からなくなることもしばしばでした。
 そんなことから、アストロ製7×50正立ファインダーをつけました。自宅付近でも8等までの星が見えますし、正立像なので星図との同定が格段にスムーズになりました。肉眼で見る空と見比べることもできますし、やはり直感で操作できるのはとても楽です。ただ正立プリズムが組み込まれているせいか、像のコントラストは少し甘めです。
 このアストロ製7×50正立ファインダーは暗視野照明装置も付いていて便利なのですが、近所で見ている分には空が明るくてそのままでも十字線が見えてしまうのでそれほど使っていません。
 ファインダーの脚はBORG純正のものを使っています。大きなつまみネジ1本で脱着ができるので、分解・組立は工具レスで非常に楽です。何度も分解を繰り返していますが、光軸の再現性も問題ありません。

■松本式正立ミラーシステム(EMS)を使う

 良く知られているように、天体望遠鏡は対象を倒立像で見ています。最初はとまどうのですが、ある程度経てば慣れてしまいますし、一般的にも宇宙空間に上下はないので倒立像で問題はないとされています。
 さて、屈折望遠鏡では天頂付近を見るときに、そのままではアクロバットのような姿勢を強いられます。そのため天頂プリズムや天頂ミラーといったパーツが用意されているのですが、これを使った像は左右だけ逆の裏像になってしまうので、好きになれません。土星や木星くらいなら良いのですが、すばるのような星の配置までしっかり覚えているような対象を見ると、頭痛がしてきます。せっかく高価な天体望遠鏡を使っているのに、最後の最後で裏返しになった像を見なければならないのは納得できません。
 最初に試したのは45度傾斜型正立プリズムでした。これはダハプリズムを利用して正立像をつくるものですが、内部でずいぶん複雑な光路をたどっているらしく、コントラストが低下するほか、高倍率時は星像も悪化します。もともと低〜中倍率での星雲・星団の観望が中心なので最初はそのまま使っていたのですが、前記の眼視用絞りを使うようになってからはコントラストも気になるようになり、これに代わるパーツを探すようになりました。

 いろいろ調べた結果、条件に合致するのは「整像ペンタプリズム(笠井トレーディング扱い)」と「松本式正立ミラーシステム」だけでした。整像ペンタプリズムは光路を90度曲げても倒立像を得るもの、松本式正立ミラーシステムは2枚の平面ミラーを組み合わせて90度曲げた光路で正立像を得るものです。
 正立像の便利さを知っていたので、候補は松本式正立ミラーシステム(EMS)に絞られました。ただ価格は安いものではなく、廉価版のEMS-Sでも29,800円します。ちょっと迷ったのですが、制作者の松本さんに不明点をメールで問い合わせたところ、丁寧なご返答を頂いて、結局導入に踏み切りました。

 EMSを使用しての見え具合ですが、自分が使っている範囲では、コントラストの低下も、星像の悪化も全くありません。45°正立プリズムではモヤッとしか見えなかった三重星いっかくじゅう座βも余裕で分離して見えます。45°正立プリズムよりも覗きやすいし、つくりも頑丈そうなので、購入後はBORGの鏡筒につけっぱなしで使っています。
 正立ファインダーと本体の正立像の組み合わせは非常に快適で、一度使うと止められません。肉眼で見た空とファインダーの視野、ファインダーの視野と本体の視野、とそのまま素直に移行できるので楽なのです。直感的に操作できるので、惑星など明るい対象はファインダーなしでも苦労せずに導入できます。倒立像に慣れていると分かりませんが、普段いかに不自然な操作をしているのかに気付きます。裏像や倒立像に一度でも不満を感じたことがある方なら、EMSは買って納得できるパーツだと思います。
 なお天頂プリズムやミラーについては、YAMACAさんの「星を見る道具の工房」のページに詳しい比較が載っていて、参考になります。EMSの考案・製作者の松本さんのページも紹介しておきます。EMSの原理や入手法などが紹介されています。

星を見る道具の工房>第1展示室人間工学的な天体望遠鏡>のぞきやすくする接眼部アクセサリー
          アイデアと自作記>個人の優れた発明品 EMSの紹介
天体望遠鏡革命(松本さんのページ)

■これまでの感想と今後の展開

 BORGのSWIIセットはお手軽観望用には好適な選択肢の一つだと思います。軽さとコンパクトさ、工具レスの分解・組立、これだけで天体望遠鏡の使用頻度が倍以上になりました。一ヶ月に数回しか使わない大口径望遠鏡と、一週間に数回使う小口径望遠鏡を比べたら、後者の方が星と付き合う上では幸せな道具だと思います(両方持っていたらいいのですけれどね)。
 もちろん欠点はないわけではなく、この機材の場合、最大のウィークポイントは架台の弱さです。正直なところ10cm屈折を載せるには少々荷が重く、高倍率の使用時は多少の無理を感じます。もっとも短焦点アクロマートの鏡筒で高倍率の月・惑星はそもそも守備範囲外だということを考えると、機動性と合わせてぎりぎりの組み合わせなのかもしれません。オールラウンドに使いたいのなら、BORG76/76EDのセットの方が快適だと思います。
 それでもBORG100mmを使っているのは、集光力の差です。特に星雲・星団を見ようとすると、6〜8cmクラスの機材と10cmの機材では、やはり一段見え具合が違ってきます。他の10cmクラスの鏡筒は大抵がっしりした赤道儀に載っていますので、とても手軽に扱うのは無理。気楽に(かつ安く)観望を楽しもうとすると、結局は現在の組み合わせに落ち着いてしまいます。
 アクロマート鏡筒の見え味は、星雲・星団観望では全く問題なく、たまに輝星のまわりに青いニジミが見えても「だからどうなの」という程度で、かえってきれいに見えるくらい。月・惑星もうるさいことを言わねば楽しめるので、コストパフォーマンスは十分高い鏡筒だと思います。そのうち星雲・星団に飽きたら二重星も試してみたいと思っています。

 ということで、現状でも十分といえば十分なのですが、せっかくなので将来的にはこの使い勝手を維持したまま、月・惑星も見てみたいと考えています。そうすると重量があまり増えない範囲で架台をもう一回り頑丈なものにし、レンズもEDにしたくなります。手軽に使えそうな架台はタカハシのTG経緯台かテレビューのF2経緯台くらいになるようですが、軽く数万円かかってしまいます。(→2002年夏にF2経緯台を購入しました。その後のことはこちら
 100ED対物レンズもB品でも9万円近く……まぁEDの10cm鏡筒が10万円以下の投資で手に入るのは、安いといえば安いのですが、ちょっと気軽に買える値段ではありませんねぇ。もうしばらくこのアクロマートを使い続けて、この街中でメシエ天体がどれだけ見えるか、チャレンジしたいと思います。

 参考までに、BORGの製造・発売元のオアシス・ダイレクトのページを紹介しておきます。以前は初心者と写真マニア向けに特化した印象がありましたが、最近は観望派向けの製品も充実してきています。また、かゆいところに手の届くパーツがたくさんそろっているのも特徴です。質問や問い合わせにも丁寧に対応してくれます。

(株)トミーテック オアシス・ダイレクト

(2001.12.23記 2002.9.21追記)


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