塩屋天体観測所プラネタリウム・天文台訪問記
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深海調査研究船「かいれい」
無人探査機「かいこう7000II」(2)

(2008.4.12訪問/2008.4.13記)

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「かいれい」の調査・研究設備

 ここからは「かいれい」の調査・研究設備の紹介です。

 無人探査艇「かいこう」の母船の役割だけかと思っていたら、それは大間違い。「かいれい」自身も様々な設備を持っている船なのです。

マルチナロービーム音響測深装置

調査指揮室にある筐体 測定した海底地形図が展示されていました

 「マルチナロービーム音響測深装置」は、音波を利用して海底までの距離を測る装置です。細いビームを120本以上発射して、広い範囲を精度良く測定できるのが「マルチナロービーム」たる由縁。得られたデータは船上で処理され、すぐに海底地形図として出力されます。

 どれくらいの制度があるか聞いてみたら、条件によって幅があるものの、9,000mの深さの海で、測った場所に「かいこう」を潜らせてみたら、20mしか差がなかったそうです。もう少し浅い場所だと数mくらいのときもあるとか。

 この測定は航海しながら行えます。昼間は無人探査機を利用した調査を行い、夜は特定海域を往復しながら地図作り。24時間体制でミッションが行われます。

マルチチャンネル反射法探査装置

エアガン(銀のパイプ)と浮き(黒い部分) 中央の細長いパイプ状のものがエアガン

 「マルチチャンネル反射法探査装置」は、海底の地下の様子を調べる装置です。

 人工的に音波を発生させて、それが海底や、その下の地層の境界面などで跳ね返ってくるのをキャッチして、それを元に海底下の様子を描き出します。

 その人工的に音波を発生させる装置が「エアガン」。といっても弾丸を発射するのではなく、水深16mのところで、圧縮空気を一斉に吐き出します。音波というと穏やかですが、実際は衝撃波というか、地震波です。出力の違うエアガンを連ねて、互いのノイズをキャンセルするようになっているなど、改良もされています。

エアガンを曳航するケーブル
高圧空気を送り込むパイプになっています
エアガンは左右に4基ずつ、合計8基搭載

 エアガンを曳航するケーブルは、「かいれい」から圧縮空気を送り込むパイプになっています。これで空気を送り込み、走りながら次々に地震波を発振していきます。

右の巨大なリールがストリーマーケーブル ケーブルの中にマイクが仕込まれています

 その地震波が海底や地下で反射して、戻ってくるのをキャッチするのがストリーマーケーブル。総延長5,000mのケーブルの中にハイドロフォン(振動を検知する機器でマイクと同じ)が仕込まれていて、これを船尾から長々と伸ばして、地震波を拾い続けるのです。

 このケーブルを繰り出すだけで3時間もかかる大仕事。探査が始まると24時間休みなしでデータを収集します。

 白黒のシワがたくさん刻まれた図が展示されていましたが、この解析がまた、一仕事とのこと。

深海の世界

 いよいよ深海に潜る機械の登場ですが、その前に深海がどんな場所か、ご紹介。

 よく知られたように深海の水圧は強力なものです。水深1,000mで約100気圧、1平方cmに1kgの力がかかります。空気の泡をたくさん詰め込んだ発泡スチロールを沈めると、効果てきめん。手前のカップヌードルの容器は、哀れ、ミニサイズを通り越して、最後には奥の3〜4cmサイズにまで縮んでしまいました。


カメラや照明のカバーのアクリル半球 視界はこんな感じ?

 カメラや照明のカバーにはアクリルの半球が使われます。球はいちばん圧力に強い形態です。このアクリルの厚さは約7〜8mm。1cmもないのは意外でした。

浮力材 試験で圧壊したもの

 深海で大変なのは浮力材です。潜水船は水中で、重量と浮力のバランスが取れた中立の状態になっていなければなりません。調査船の場合、重たい観測機材をたくさん積むので、それに相当する分の浮力材を積んでいくことになります。

 私たちの身近な水に浮くものでは、空気を詰めた浮き袋や、発泡スチロールが思い浮かびます。が、先ほどのカップヌードルの容器を思い出して下さい。普通に空気を詰めた浮力材では、圧力に負けて潰れてしまうのです。

 ということで、浮力材も特別に開発。一見、木のチップのように見えますが、実は中空の極小ガラス玉を樹脂で固めたもの。硬いわりには軽く、もちろん水に浮きます。試験で圧壊したサンプルも展示してありましたが、蜘蛛の巣のように細かいヒビが入って、ボロボロになっています。これを固める樹脂を探すのも大変だったそうです。

 ちなみに、加工時はノコギリで切断するのですが、「白い粉がたくさん飛んで体に悪そう」とのこと。ていうか、レーザーカッターみたいな装置じゃなくて、ノコギリで切ることがびっくりです。

1万m級フリーフォール式カメラ/採泥システム

フリーフォール式カメラ/採泥システム 三角形のやぐらのような形状

 現在試験中の「1万m級フリーフォール式カメラ/採泥システム」。水深1万mまで潜って、撮影や海底の泥を採取するシステムです。

 って、どう見てもステンレスのパイプを組み合わせたやぐらなのです。これが。

結束バンドで止めてあるケーブル 塩ビ管と木材なのですけど

 ケーブルはむき出しのまま止めてあるし、部材の一部は木材や塩ビ管だったりします。

 隣のブースで「深海の圧力でカップラーメンの容器はペシャンコになります」って説明を受けたばかりなのに、これで大丈夫なのかと聞いたら、「木材は意外に丈夫なんですよ。まぁ多少は変形するかもしれませんけど、問題ないです」とのこと。

 「深海1万mまで潜るのに、えらい手作りですね」と聞いたら、「お金ないですからね、あるものは何だって使いますよ、あっはっはっ」と頼もしい答えが返ってきました。

 無人調査機の「かいこう7000II」が、7,000mまでしか潜れないので、それより深い部分を少しでも調査するためにつくっているのだそうです。フリーフォールの名の通り、基本的には船からぶら下げて、そのまま海底を引きずります。それにしても、こんな日曜大工的なシステムで深海に挑むとは。恐るべしJAMSTEC。

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