塩屋天体観測所プラネタリウム・天文台訪問記
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深海調査研究船「かいれい」
無人探査機「かいこう7000II」(3)

(2008.4.12訪問/2008.4.13記)

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無人探査機「かいこう7000II」

 水深7,000mまで潜ることの出来る無人探査機「かいこう7000II」は、「かいれい」の目玉です。

 「かいれい」からケーブルでつり下げられるランチャー(親機)と、ランチャーから分離して深海の調査を行うビーグル(子機)からなっています。

 黄色の船体が、上下二段になっていますが、上の大きな部分がランチャー、下の水色の帯が巻かれている部分がビーグルです。

 7,000mもケーブルを繰り出すと、ケーブルにかかる水の抵抗で探査機の身動きがとれなくなるのですが、ランチャーからビーグルを分離することで、海底を自由に動くことが出来るようになります。

かいこう7000II(前方から) かいこう7000II(後方から)

初代「かいこう」と「かいこう7000II」

 「かいれい」就航当時は、水深10,000mまで潜ることの出来る無人探査機「かいこう」が搭載されていました。ところが2003年5月29日にケーブル断線・ビーグル亡失という事故に見舞われます。ビークルは海面まで浮上しましたが、直後に台風が通過し、また黒潮に近い海域で捜索範囲を絞るのが難しいなど悪条件が重なり、結局、発見には至りませんでした。

 代替機として急遽、7,000m級無人探査機UROV7Kを改装して新ビーグルとしたのが「かいこう7000」、さらにビーグルを大型化して搭載機器を増やしたものが、現在の「かいこう7000II」です。初代には及ばぬものの、7,000mの潜行能力は、現在でも世界トップクラスとのこと。

 ちなみにランチャーは「かいこう」時代から変わっていないので、ここだけは10,000mまで潜ることができます。

H-IIロケット8号機の第一段エンジン

 「かいれい」「かいこう」コンビの成果の一つが、H-IIロケット8号機の第一段エンジンの発見です。

 1999年11月15日に、多目的衛星MTSATを積んだH-IIロケット8号機は、第一段エンジン(LE-7A)が異常燃焼を起こし、小笠原沖上空で指令破壊されます。

 原因究明のため、残骸の発見がJAMSTECに依頼されます。ロケットが沈んだのは広大な太平洋。NASDA(当時)のシミュレーションで、落下予想範囲は幅3.3km、長さ26kmまで絞り込まれますが、該当海域の深さ3,000m。エンジンの大きさはたったの3m四方。

 11月19日に横須賀を出港した「かいれい」は20日から捜索を開始。「かいれい」のマルチナロービームで海底地形図を作成し、「かいこう」ランチャーのソナーで怪しげなポイントをピックアップします。

 そして、11月27日に、見つけちゃったのです。恐るべし。

 後に引き上げられたエンジンを調査したところ、予想しなかった疲労破壊が起こっていたことが分かり、さっそくH-IIAのLE-7Bの改良に生かされました。実物調査がなければ、LE-7Bでも同様のトラブルが起こった可能性もあり、日本の宇宙開発に大きく寄与した成果といえます。

「かいこう7000II」コンソール

調査指揮室にある「かいこう7000II」コンソール 3人掛かりで操縦・操作を行います

 「かいこう7000II」のコントロールは、「かいれい」船上から行います。ランチャーとビーグル、それぞれの操作を行うために、操作員は3人。

 「かいれい」ブリッジのすぐ後ろに「調査指揮室」という部屋があり、その最奥部に「かいこう7000II」のコンソールがあります。少しばかり「とってつけた感」があるのは、元は「よこすか」に設置されていた機器を移設したため。ただし配置は初期の経験を生かして改善されています。

 「かいれい」と「かいこう7000II」の間は光ファイバーで結ばれていて、情報伝達は基本的に光通信。実は私、有線でつながっているとは知らずに、超音波か何かで無線通信しているのだと思っていました。

 「『かいこう7000II』は、いちど潜ったら、どれくらいバッテリー持つのですか?」と訪ねたら、「ケーブルに電線を載せて、3000Vを給電しています」とのこと。確かにケーブルでつながっていれば、バッテリーで動かす必要はありません。

 「かいこう7000II」のオペレーション時には、このコンソールの周りに研究者が集まって、モニターや計測値を見ながらあれやこれや、やるそうです。

音響航法装置 「かいこう7000II」の航路がプロットされています

 調査指揮室にあった音響航法装置。隣のテーブルには「かいこう7000II」の航跡をプロットした海図が展示されていました。

ケーブルストアウインチ

「かいこう7000II」のケーブル 3000Vと聞けば近寄りたくありません

 「かいこう7000II」の格納庫の隣には、ケーブルストアウインチがあります。なにせ10,000m以上のケーブルを巻き取っていますから、その巨大さたるや、一区画を丸ごと占拠しています。そしてケーブルには3,000Vの送電線が通っていますから、当然、立入禁止。

奥から手前に伸びるケーブル ケーブル拡大写真

 ケーブルの中には電力送電線用の銅線が3本と、4芯光ファイバ1ユニットが収まっています。

クレーン

A型クレーン 角度表示はお休み中

 「かいこう7000II」の着水揚収を行うクレーン。「かいれい」の船尾に付いています。

 ちなみに着水してから水深7,000mまで潜るのに2時間半、浮かび上がるのに同じだけの時間がかかるそうです。時間だけなら、大阪から日帰りで東京に出張するようなオペレーションです。

いよいよ「かいこう7000II」

ビーグル前面のライトとカメラ群 こちらはマニピュレーターとバスケット

 ビーグルの前面にはカメラやマニピュレーターがたくさん。見ているだけでワクワクします。

 黄色いカバーの中には浮力材がつまっているそうです。

ライトとカメラ拡大
(2枚目は後部のもの、3枚目は広角カラーTV)
マニピュレーター拡大
(2枚目が左腕、3枚目が右腕)

 いろいろ拡大してみました。どんどんワクワク感が増してきます。マニピュレーターは2本付いていて、左右の大きさが違うのですが、専ら大きめの右側を使うそうです。

 バスケットはこんなに浅くて大丈夫かというつくり。結束バンドでカバーを止めてあるのは気のせいか。

 深海7,000mの映像を撮り、作業を行う「かいこう7000II」の最重要部です。

手作りの無人探査機

 潜水船というと、クジラのような筒形の頑丈な外殻の中に、さまざまな機器類を搭載した姿を想像してしまうのですが、「かいこう7000II」は人が乗るわけではないので、ほとんどの機器類は海水にさらされる状態です。

やたら頑丈そうな容器 ケーブルがゴチャゴチャむき出しのまま

 やたら頑丈そうな、一目で耐圧容器と分かるものもありますが、あちこちでケーブルがゴチャゴチャと露出したままなのにびっくり。

パイプの中にはケロシン 緑色のかたまりは浮力材

 パイプの中にはオイルが満たしてあって、これで水圧に耐えるようになっています。深海に潜ると水温が0度近くまで下がるので、低温に耐えるオイルを使わないといけません。ということで、中に入っているのはケロシンだそうです。

 「ケロシン……って」「まぁ、灯油みたいなものです」「ジェット燃料じゃないですか」「だから、この周りでは火気厳禁です」「……」

 船底に積まれている緑色のかたまりは浮力材。搭載している機材と同等の浮力を得る必要があるので、隙あらば浮力材が詰め込まれています。中には、10cm角くらいの浮力材の欠片が結束バンドでフレームに止めてあるものもありました。

ビニールテープで巻いたまま7,000m 結束バンドで止めたまま7,000m

 解説して下さったスタッフの方が「自分たちで組み上げましたから」と誇らしげに語っていましたが、たしかに手作り感あふれる探査機です。

 ぜひ、また深海1万mにチャレンジしてください。

ランチャー

 ビーグルに比べると地味な印象のランチャーですが、下から覗き込むと、こちらも配線がぎっしりつまっています。ランチャーとビーグルを結ぶケーブルは250mあり、これもランチャー内に収納されています。

サイドスキャンソナー サブボトムプロファイラー

 左写真はサイドスキャンソナー。「42」と白数字が書かれた横長の黒い部分です。横方向に音波を発振し、探査を行います。H-II8号機の一段目を最初に発見したのがこのセンサーでした。

 写真下にスラスターが3つ見えていますが、これはビーグルのもの。垂直移動用が6つ、水平移動用が4つと合計10個のスラスターがあります。

 話をランチャーに戻して、右写真は船尾に付いているサブボトムプロファイラー。音波を利用して海底下数10mまでの地質調査を行います。

10年目の「かいれい」

 1997年に生まれた「かいれい」は、2007年が就航10周年でした。

 今回の一般公開、解説にあたっていたスタッフの方が、とにかく気さくに何でも質問に答えて下さったのも印象的でした。身近なようで分からないことだらけの海。今後の一層の活躍を期待したいです。

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(2008.4.12訪問/2008.4.13記)

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