ガリレオの望遠鏡(試作品) |
「大人の科学マガジン」というムックのシリーズがあります。学研が、かつての「〜年の科学」で育った世代を狙いに、大人向けにアレンジ・パワーアップした「科学のふろく」を提供しています。
本屋さんで売っていますが、メインはもちろん、「ふろく」です。天文関係ではメガスターの大平さんがプロデュースした「究極のピンホールプラネタリウム」が大ヒットしたのは記憶に新しいところ。いっぽう「ニュートンの反射望遠鏡」は、反射望遠鏡の仕組みは分かるけれども見え味はどうも……という評判。価格帯が2,000円台前半に設定されているので、予算の制約の中で教育的効果とプレイバリューを満たす必要があり、そのさじ加減もまた、面白いところです。
望遠鏡の発明が17世紀の初頭で、ガリレオがそれを用いて数々の天文学的発見をしたことはよく知られています。これが1609年のことで、2009年はそれから400年。せっかくの機会を、大いに盛り上げよう、というのが「世界天文年」。
このガリレオの望遠鏡は「世界天文年2009日本委員会」公認グッズにもなっています。
接眼部側から見る |
対物側から見る |
さて、そのふろくの望遠鏡を見る機会があったので、ちょいとレポート。
見た目、細くて長くて、ガリレオの望遠鏡の雰囲気を良くかもし出しています。
対物レンズセル、接眼レンズのスリーブとバレル、筒の中央部と架台接続部はプラスチック製、いっけん革張り風の茶色い筒は厚紙を丸めたものです。
紙では強度が心配ですが、コーティングしてある硬めの紙なので、手に持ったくらいではへこみません。その代わり、この手の紙は組み立て時にしつこく丸めぐせをつけないと、うまく筒にならないと思います。たぶん工作時の重要ポイント。
対物レンズセルの上に突起がありますが、接眼側にも同じような出っ張りがあり、これを照星にして対象物に鏡筒を向けることになります。
三脚台座 |
ペットボトルキャップに付きます |
設定倍率は15倍。手持ちではちょっと無理のある倍率です。
標準で三脚ネジを切った台座が付いていて、この台座だけでも上下左右に稼動するフリーストップの簡易経緯台になっています。
面白いのは、この台座がペットボトルのキャップに付くこと。カメラ三脚を持っていなくても、ペットボトルをピラー代わりに観測が出来るのです。紙とプラスチックの軽量鏡筒だから出来る技。
写真では300mlのペットボトルですが、水平方向を見る程度なら使えるものの、出来ればもっと重たい方が安定して観測できると思います。もちろん中身の飲料は飲み干して、水道水を満たして使って下さい。
さて、接眼レンズを覗くと、まず驚くのは異様な視野の狭さ。見かけ視界が5度もない雰囲気です。
ガリレオ式の場合アイポイントがないので、接眼レンズに目を近づければ、それだけ視界が広くなるのですけれども、「針でつついた」は極端にしても「箸で穴を空けた」くらいの印象です。
対物レンズ、20mmくらい? |
ガリレオ式の視野 |
三脚に乗せて土星を導入しようとしましたが、まるでどこを見ているのか見当が付きません。
この視野では星が見えているかどうかも分からないので、ピント合わせは予め地上の遠方の景色で済ませてから、空を見ることをお薦めします。
土星は一旦あきらめて、まずは月。
照星で位置の見当をつけ、接眼レンズを覗くと、ピッタリとはいきませんが、こちらはすぐに導入できました。
視野の狭さとは裏腹に、クレーターはシャープに見えます。倍率を欲張っていないこともあるのでしょうが、期待していたより好印象。ただし視野の中に月がすっぽり入るわけがなく、直径の半分か、1/3くらいしか見えていません(日周運動で月が視野から出る時間を計れば、実視野が分かるはず)。
ガリレオの著書に、スターウォーズのデススターのような月のスケッチがありますが、たしかに雰囲気は似ています。
いちど月を導入すると、多少の勝手が分かってくるので、次の土星も簡単に……はいきません。照星で見当をつけて、狭い視野をコメットハンターのように上下左右に振りながら、ようやく土星が視野に入ります。
ガリレオが「耳がある」と評した土星ですが、うーん。
円盤ではなく、細長いような気はするのですが、うーん。ピントが甘いのか、組み立て誤差で収差が残っているのか、はたまた私の眼の影響か(眼鏡で補正していますけど、若干の乱視)、本当に細長く見えているのか、いまいち判然としません。
調べてみると、2008年は環の傾きが小さい時期で、ガリレオのスケッチの時期と、ちょっと見え方が違うようです。これはこれで、あとで期間をおいて見てみたくなります。
とにかく、この狭い視野で、様々な天体を観測し(広大なプレアデス星団まで!)、詳細なスケッチを残したガリレオは、偉大です。感服します。
そのガリレオが見た星空がどんなものか、追体験できるのが、このふろくのポイント。
実をいうと、ガリレオの天体望遠鏡、今の水準では望遠鏡としては使い物になりません。
とにかく最大の欠点は致命的な視野の狭さ。導入の難しさも面白さのうち、と楽しめればよいのですが、本気で観察しようと思ったら、ガリレオ並みの苦労を強いられます。彼の場合は苦労よりも面白さが勝っていたと思いますけど、並大抵のことではありません。
また、光学系も対物、接眼ともにシングルレンズのみの構成。倍率が低いのでそれほど気にならないものの色収差も残ります。口径を絞れば収差は改善するのですが、光量は落ち、視野は更に狭くなって、ガリレオと同じ苦労を……(苦笑)
そんなわけで、ふつうの天体望遠鏡として期待すると、「ちゃんと見えないぞ」ということになりかねません。もちろん品物としてはまじめなガリレオ式望遠鏡なのですけれども、それを分かった上で使うべき望遠鏡です。
ちなみに、私はガリレオの「星界の報告」、思わず発注してしまいました。せっかくの機会ですから、やっぱり自分の眼で比較してみたい。我ながら単純に出来ています。
さすがにこのままでは苦情が来かねないと思ったのか、凹レンズのガリレオ式の接眼鏡のほか、凸レンズのケプラー式の接眼鏡も附属しています。といってもシングルレンズなので、現在のケルナーやオルソに比べれば視野が狭いのは相変わらずですが、「箸で開けた穴」が「親指で障子紙に開けた穴」くらいになり、格段によく見えるようになった気がします。
基本的にはこの方式の望遠鏡を今でも使っているのですから、ケプラーは偉大です。感服します。
3月15日の明石市立天文科学館の観望会で、他の天体望遠鏡と並べて、このふろくの望遠鏡を、ガリレオの望遠鏡のレプリカと説明した上で、一般のお客さんに覗いて頂きました。何だか分からない、と言われるのを覚悟したのですが、月を眺めたところ、クレーターがきちんと見えるということで、予想外にもおおむね好評。
ネタとしては充分、面白い望遠鏡ですので、個人で楽しむにも、イベントで使うにも、いろいろ遊びがいがありそうです。
(2008.3.18記 福田和昭)