塩屋天体観測所|プラネタリウム・天文台訪問記
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神戸市青少年科学館のプラネタリウムでは、1981年のポートピア'81以来、ミノルタ製MS-20投影機が使われてきましたが、22年間の現役生活にピリオドを打ち、2003年12月27日に引退。代わってやってきたのが五藤光学の投影機「GSS-KOBE」です。2004年4月29日に一般公開が始まったばかりの出来立てほやほやの新品です。
神戸市民としては、これは見ておかずにはいられない。と、ゴールデンウィークの雨の中、ポートアイランドの青少年科学館に足を運んだのでした。
現役当時のMS-20投影機 | GSS-KOBE投影機 |
「GSS-KOBE」という名称が示すとおり、神戸オリジナルの投影機、というのがプレスリリースでも一つの目玉になっています。ちなみにGSSは「GOTO-SPACE-SIMULATOR」、現在の五藤光学の主力プラネタリウムです。
2004年現在のGSSのラインアップは以下の4機種。
名称 | 等級 | 投影星数 | 対応ドーム径 |
SUPER-HELIOS | 7.9等 | 約38,000個 | 18〜50m |
GSS-HELIOS | 7.4等 | 約25,000個 | 18〜30m |
GSS-URANUS | 6.6等 | 約10,000個 | 10〜18m |
GSS-CHRONOS | 6.5等 | 約8,500個 | 8〜12m |
GSS-KOBE | 7.4等 | 約25,000個 | 20m |
ところがプラネタリウムにちょっと詳しい方ならお気づきでしょうが、小型館向けのGSS-CHRONOS以外は、みな一球式、つまり恒星投影機がコンパクトに一つにまとめられたタイプです。今回納入されたGSS-KOBEは、恒星投影機が南北に分かれた二球式。う〜ん、オリジナルといっても一から設計したわけではなく、何かの原型機を元にカスタマイズしたものだと思うのですが、いったい元はなんの機種だったのでしょう?
見た目は何となく、GSS-HELIOSの一世代前に出ていた「GSS-II」に似ているのですが、はてさて。
二球式のプラネタリウムは、旧式のようにも見えますが、水平回転・緯度変化・日周運動・歳差運動の4軸をきちんと再現できるメリットもあります。一球式の投影機には一般的に歳差軸がなく、これを3軸の合成で表現しなければならないのです(もっともGSS-HELIOSはきちんと4軸で動くらしいのですが)。
赤丸の中がバーチャリウムIIのプロジェクター (すごく分かりにくいですが……) |
星の数が25,000個、というのは、今ではそれほど目新しいものではありません。インパクトでいえば、SUPER-HELIOSの煌々と青色に輝く星空の方が鮮烈でしょう。
制御系はおそらく最新の機構が盛り込まれているのでしょうが、投影された星空を素人目に見る分には、現代版プラネタリウムの標準クラス、といったところ。もちろん従前機のMS-20と比べると、なるほどシャープになったなと思う星空です。
実は神戸市青少年科学館ですごいのは、GSS-KOBEと一緒に導入されたデジタル映像システム「バーチャリウムII」。簡単にいうと、全天周映像をデジタル映像で投影するシステム。位置づけこそ補助投影システムなのですが、バーチャリウムII単体でも星座や惑星を投影することができ、これだけでも立派なデジタルプラネタリウムなのです。全天を6台のプロジェクターで分割投影しているのですが、つなぎ目もひずみも目立たず(というか分からない)、かなりの迫力映像です。
オープニングの番組の途中で、満天の星空に星座絵が次々と重ねられていくシーンがあるのですが、最初はバーチャリウムの映像だと気付かず、「投影機本体を入れ換えたわりには、なんとなく甘い星像だな〜」と思って見ていました。例えていえば天体写真のスライドを引き延ばして投影しているような雰囲気。ふと気付いてGSS-KOBEを見ると、灯りがすっかり落ちています。なんとプロジェクターで写しだしたデジタルの星空に、つかの間だまされてしまったのでした。
たしかに光学式の投影機と比べると星像の甘さはありますが、動きのある星空ではそれほど気にならなくなりますし、前後100万年の恒星の固有運動まで再現できるというのですからびっくりです。こればかりは光学式では真似できません。デジタルプラネタリウムもここまで来ちゃったのかと、驚いたのでした。
もちろん全天周映像の真価が発揮される臨場感もなかなかのものです。通常の全天周映画だと、ドームの周囲に映像が切れる部分ができたりするのですが、バーチャリウムIIではそれもありません。土星の輪に近づくシーンなど、すごくいい雰囲気で表現しています。
2004年4月29日〜9月5日まで、お披露目番組の「プラネタリア」が投影されています。
光害の影響を受けた神戸の夜空を再現して、今宵の空を解説員が説明するのは、MS-20時代以来のスタイルです。それが終わると、いよいよオート番組の「プラネタリア」。
季節の星座案内、ギリシア神話、サイエンストピックスの惑星探査機紹介とおまけの星間旅行風の全天周写真投影と、GSS-KOBEとバーチャリウムIIの機能をふんだんに盛り込んだ力作です。それにしても、ゴールデンウィークの番組を夏休み終わるまで引っ張るかなぁ(^^;
ちょっとだけ心配になったのが、番組の制作費。あんまり立派な補助投影システムだと、コンテンツを作るのが高くつきそうです。せっかくのシステムなので活かさないのももったいないですし、かといって限られた予算の中で番組の更新頻度を下げてしまっても、目新しさがなくなってリピーター層が生まれません。バランスを取るのが難しい部分です。
神戸市青少年科学館は、これまでも丁寧なオート番組をつくってきている印象があるので、ぜひぜひそれは続けて欲しいなぁ、と思うのでした。
以前のMS-20投影機もロビーに展示してある。黒く塗ったら名古屋のツアイスIV型とけっこう似た雰囲気になるかもしれない。 | こちらGSS-KOBE投影機の近影。五藤光学の投影機ってなんでみんな紫色なんでしょうね。 |
※2005年7月追記 結局、一般番組は6ヶ月ごとの年2本になったようです。できれば季節ごとの年4本は維持してもらいたかったですけど、やはり制作費が高いのでしょうか。ちなみにリニューアル第2作の「Soleil(ソレイユ)〜太陽の詩〜」(2004年9月11日〜2005年3月6日投影)は、震災10年記念番組ということもあり、気合いと想いのこもった、涙なしでは見られない名作でした。
※ドーム内の写真は許可を得て撮影しています。
(2004.5.4訪問/2004.5.5 福田和昭 記)