塩屋天体観測所プラネタリウム・天文台訪問記
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INFINIUM L-OSAKAを見てきました

INFINIUM L-OSAKA

 大阪市立科学館のプラネタリウムが2004年7月7日にリニューアルオープンしました。

 これまでのミノルタ製「INFINIUM-アルファ」投影機に代わり、新しくコニカミノルタ製「INFINIUM L-OSAKA」投影機が納入されました。あわせて映像装置として五藤光学のバーチャリウムIIも導入。国内の二大プラネタリウムメーカーがドームの中で競演しています。

INFINIUM L-OSAKA 恒星投影球
INFINIUM L-OSAKA投影機

どんな投影機?

 「INFINIUM L-OSAKA」の名称のとおり、大阪オリジナルの投影機です。

 これまでのINFINIUMシリーズは、球形の本体にタコの吸盤のように投影レンズ群がボコボコ貼り付いていましたが、今回大阪に導入されたものは、表面形状がすっきりなめらかに仕上がっています。色は深いブルーで、投影前から子どもたちが興味津々に本体に見入っていました。

 プラネタリウム投影機の最近の流れとしては、投影星数を大幅に強化したり、星の光量を大幅にアップしたりするものがあります。INFINIUM L-OSAKAは、これらとは少し違ったアプローチをした投影機をして、密かに注目を集めていました。

肉眼で見える星空へのこだわり

 INFINIUM L-OSAKAの基本的な投影星数は、約9,000個です。

 メガスターの100万個は言うに及ばず、コニカミノルタ標準のINFINIUMアルファでさえ26,000個の星を投影しているのに、INFINIUM L-OSAKAではあえて星の数を減らしています。

 プラネタリウムの星の明るさは、恒星原盤に開けた穴の大きさで表現しています。夜空の本物の星は点光源ですが、プラネタリウムの場合は明るい星は大きな面積、暗い星は小さな面積となっています。とはいえあまり大きな面積では星らしくなくなってしまうので、大きな方には自ずと限界があります(とても明るい星は個別に投影機を設けています)。小さい方も、投影機からドームスクリーンまで光が届かないと意味がないので、面積を小さくする方も限界があります。

 夜空の星は1等級明るさが違うと約2.5倍明るさが変化しますが、忠実に面積比でこれを再現すると、10等級明るさが違う星では直径が60倍違う星が映し出されてしまいます。さすがにこれでは明るい星が巨大になってしまうので、実際は光度差を圧縮して、例えば1等級で2.5倍違うところを2倍にしたりするわけです。ただこの場合は5等級で100倍あるはずの差が30倍程度になってしまうため、メリハリの薄い印象の星空になってしまいます。

 INFINIUM L-OSAKAが星の数を減らしたのはこの点の改善を狙ったものです。

 星の数を肉眼で見える限界まで押さえた分だけ、きちんと星の光度差を表現し、ある意味「リアル」な星空の表現にチャレンジしています。また星の数を押さえた分、星像をシャープにもしているそうです。

 その他の機能については日本プラネタリウム協会のサイトのニュースを見ていただいた方が早いでしょう1)。天の川については35万個の星像で表現……というのは、これはリニューアル後のサンシャインの天の川と同じシステムを使っているのではないかと推測します2)

1) コニカミノルタプラネタリウムのサイトにINFINIUM L/Sについてのプレスリリースが出ていました。(2004.9.12追記)
2) 上記プレスリリースによると、天の川の星も恒星原盤に直接加工しているみたいです。(2004.9.12追記)

実際に見てみました

投影機とドーム周囲のLED照明
投影機とドーム周囲のLED照明

 で、ホンマのところはどないやねん、と見てみました。

 良いです、これは。

 ドームスクリーンに映し出された星空、すごく実際の雰囲気に近い感じで、星座をたどることが出来ます。例えばこと座でいえば、ベガが飛び抜けて明るくて、他の星は大体同じような暗さなのですが、同じような暗さの中でも、M57リング星雲の両脇の星は少し明るくて、平行四辺形の中でも最初に判別することが出来ます(分かりにくい例えでごめんなさい)。や座やいるか座も、他のプラネタリウムでは場所を知っていればパッと分かってしまうのですが、INFINIUM L-OSAKAの星空では、こうした星座もすぐには見つからない……というか、見つけ易さ/にくさが、実際の星空を見ているのにかなり近い感覚なのです。この辺りは星の等級差の再現にこだわったのが功を奏していると思います。気に入ったところではさそり座の「すもうとり星」の雰囲気も良かったです(これも分かりにくい例えかも)。

星像や天の川

 星の瞬きですが、気をつけてみていると、なるほど確かに瞬いています。でも途中から気にしなくなってしまいました。実は輝星だけまたたきをかけているプラネタリウムもあるのですが、これはかえって不自然に見えてしまうこともあり、気にならなくなったというのはそれなりに自然に見えていたということかと思います。

 星像がシャープだというのですが、私の場合は比較対象が明石のツアイスなので、これと比べると最近のプラネタリウムでしたらどこでもシャープに見えます。ので、まぁそういうものかと。

 恒星の集まりとして表現したという天の川ですが、サンシャインでは何となく浮いてしまっている感もあったのですが、大阪では他の投影された星々とバランスが取れているのか、派手すぎず、地味すぎず、なかなか良い感じで見えていました。不覚にも双眼鏡を持っていくのを忘れたのですが、解説員の方がM7散開星団の説明をされていて、確かに肉眼でも確認できました。

 強いて気になったといえば、色温度が高い光源を使ったということもあって、星の色が青っぽく感じてしまうこと。この辺りは微妙なところなので、好みというか感覚の範疇かと思います。

月やLED照明

 地球照も投影できるという月ですが、あいにくこの日はほとんど満月で、地球照のかけらもありません。しかし、投影された月の明るいこと。やたらまぶしいので手元を見ると、なんと投影された月の光で、影が出来ているのです。ライブ解説の途中で月の明かりを落として満天の星空を演出するのですが、説得力抜群でした。ちなみにこの月、肉眼で見る限りは海の模様もシャープで、この点も出来がいいです。

 またドームの円周には、全周に高輝度LED照明が仕込まれていて、夕焼け空などはこのLED照明で表現しています。単色の夕焼け・朝焼け投影機に比べて、より多彩な色彩の空を演出できます。熟成させるとすごくきれいな夕焼け空が映し出せるのではないでしょうか。

 総じて、肉眼で見た感覚に近い「リアルな星空」という点では、かなり高い評価ができるものだと思います。

 ここ数年で様々な新しいプラネタリウム投影機が出現しましたが、昔ながらのツアイス投影機に比べて総合的なバランスではどこかおかしなところがあったものですが、このINFINIUM L-OSAKAは、その点でも勝るとも劣らない線をいっています。

お披露目番組「星空へのパスポート」

 2004年7月7日〜11月28日まで、お披露目番組の投影です。前半がライブ解説で、後半がオート番組の「星空へのパスポート」。

 大阪市立科学館の解説の方、いつもすごく落ち着いた口調で語りかけてくれます。深夜のNHKラジオ番組的な落ち着きぶりで、安心して聴き入れます。イスの座り心地もいいので、危うく眠りに落ちかねません(^_^; が、そこはこだわりの強さで定評のあるという大阪のみなさん、寝させることなく引っ張ります。

 関西の大きめの館では、明石と京都が生解説主体、大阪と神戸が生解説+オート番組なのですが、生解説も館の個性がそれぞれあるので、見比べて(聴き比べ?)みるのも面白いかもしれません。

 後半の「星空へのパスポート」は、かつてニューヨークのヘイデンプラネタリウムで2000年に上映されていた……というか今も上映しているらしい「Passport to the Universe」の日本語版。向こうではトム・ハンクスがナレーションをしていたそうですが、日本語版のナレーションは坂本龍一。なんなんだこの人選は?

 前半のINFINIUM L-OSAKA大活躍のライブ解説に代わって、後半はバーチャリウムII全開。次々と頭上をすり抜ける惑星群に周りの席から「オーッ」とため息が漏れ、圧巻はM42オリオン大星雲のCGによる内部映像。これはすごいです。INFINIUM L-OSAKAとバーチャリウムIIのからみはなかったのですが、番組が終わるまでそんなこと全然忘れていました。

 懇切丁寧な日本の番組と比べて、アメリカの番組は細かいことは気にせずテンポよく先に進んでしまいます。おいおいおい、と思ったのですが、この辺は文化の違いなのでしょう。極端な例え方をすると、NHK教育テレビと民放の番組の違いみたいなものです。もちろん上映される映像は、解説されない部分でもきっちりポイントは押さえてあります。ううむ。

 次回作は2004年12月3日からの「オーロラの世界」なのですが、バーチャリウムIIを駆使して、ドーム中にオーロラが広がるに違いありません(本当か?)。楽しみです。

大阪市立電気科学館ツァイスII型投影機 INFINIUM L-OSAKA投影機
 旧大阪市立電気科学館のツアイスII型投影機。1938年納入。大阪市指定文化財で日本最古のプラネタリウムです。  こちらINFINIUM L-OSAKA投影機。66年の時を経て、プラネタリウムはここまで姿を変えました。

※ドーム内の写真は許可を得て撮影しています。

(2004.7.31訪問/2004.8.2記/2004.9.12追記 福田和昭)

塩屋天体観測所プラネタリウム・天文台訪問記
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