塩屋天体観測所|プラネタリウム・天文台訪問記
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(2007.12.9訪問/2010.3.26記)
観測室の中では様々な観測機器の展示解説が行われていました。見学に来ている人の中には、そうとう突っ込んだ質問をしている方も少なからずいらっしゃいました。気象は身近な分野ですし、趣味で気象予報士の資格取る人もいるくらいですから、それもうなずけます。
気球 | ラジオゾンデ本体 |
ラジオゾンデは高層大気の観測を行うための無線機付きの測定器。気球にぶら下げて放たれて、上空30kmくらいまでの気象を観測します。ちなみにジェット旅客機が飛んでいるのは高度10kmくらい。
気球は最後に破裂して、ラジオゾンデは海上に落下して使い捨てになるそうです。1個何万円とかで勿体ない気もするのですが、こんな小さなものを海上で回収するのは、まず無理な話。こうした観測のおかげで、気象災害を未然に軽減できているのです。
船外の観測装置のモニタがありました。こうしてデータが蓄積されていきます。
水温水深計のモニタのエリア | 桜時計で時計を合わせるのか |
水深水温計のデータを表示・分析する区画。海上でも桜時計を使っているのですか。
右側の弾丸のようなプローブがセンサーになっていて、これを海中へ投下するして水温を計測します。プローブとランチャーはエナメル線で結ばれていて、データがランチャーに電送されます。プローブは1回のみの使い切りですが、比較的短時間でデータを得られるようです。
後で紹介しますが、「啓風丸」は電気伝導度水温水深計(CTD)も備えています。こちらは精度も高く何度でも使えるのですが、ウインチで上げ下げするので計測には時間がかかります。時と場合で使い分けているのでしょう。
採水器 | 自動化学分析装置 |
CTDで採取した様々な深度の海水を分析します。測定項目は、塩分、海水中の酸素(溶在酸素)、水素イオン濃度、栄養塩(リン酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩)、植物プランクトンに含まれるクロロフィルa……気象観測は百葉箱のイメージがあるのですが、なんだかずいぶんかけ離れた世界です。
右写真の自動化学分析装置は、リン酸塩・硝酸塩・亜硝酸塩等の濃度を自動的に分析する装置。観測の効率化を図っています。
航走用二酸化炭素観測装置 | 電気伝導度塩分計 |
航走用二酸化炭素観測装置は、船首から採取した大気の二酸化炭素濃度を測定しています。電気伝導度塩分計は、水温と塩分の鉛直分布(深さ方向の分布)を測定するもの。もはや完全に海洋観測です。
本棚 | 落下防止棒 |
閑話休題で、船内の本棚。電子レンジに延々と延びている延長コードが生活感を醸し出しています。本棚には棚ごとに、船体の揺れで本が落ちないように横棒が付いています。こういうものを見ると、外洋で長期間観測するのは大変なんだなぁと改めて感じます。
透明度板 | カラーチャート |
海に沈めて海水の色・透明度を観測する装置です。装置といっても、直径30cmの白色の円盤です。
海水の色は、沈めた透明度板の色とカラーチャートを見比べて観測。また透明度は透明度板が見えなくなる深さを目視して観測します。まだまだ自動化されていない部分もあるのですね。
熱帯から亜熱帯では透明度が50mを越えることもあるそうです。親潮などの寒流域や土佐湾などの沿岸域で5〜20m、大阪湾や瀬戸内海東部の透明度は5m〜50cmとのこと。ううむ。
タールボールネット | タールボール |
タールボールは船舶から出た油やゴミが固まって海面に浮かんでいるもの。船尾から網を引いて回収し、その海域の汚れ具合を測定します。1990年代半ばまではしばしばかかったそうですが、この10年ほどはほどんど採取されなくなったそうです。こういう改善はうれしいですね。
電気伝導度水温水深計(CTD)及び多筒採水器 | CTD |
CTDは、“Conductivity Temperature Depth
plofiler”の略。そのまま「電気伝導度水温水深計」です。白いカゴ状の枠組みの下部に、水温と水深を測定するセンサーが収められています。
上部の黒いパイプの群が採水器。船上からの指令で、ここのパイプごとに蓋を閉めることができ、一度の投下で様々な水深の海水を採取します。引き上げると即座に観測室に回して分析にかかります。
CTDを揚降・収納するためのクレーンは船体中央部のファンネルの脇にあります。7000mケーブルウィンチとのことですが、観測を行うのは深度2000mまで。
この小型潜水艇のようなものは、曳航式水温水深塩分計です。船尾から海中に下ろして、水温・水深・塩分を測定します。前部の黄色いフィンが可動して、海中で深度を変えることが出来るため、広範囲の測定を一度に行うことが出来ます。
左写真、人の後ろに写っている大きなドラムが、曳航式水温水深塩分計のウインチです。右写真、船尾に門型クレーンが写っていますが、これを利用して上げ下ろしを行っています。
こうしてみると、改めて観測機器の塊の船だということが分かります。
船尾のデッキでは「はれるん」が愛敬を振りまいていました。頭から晴・曇・雨と分かりやすいデザインですね。
2010年3月29日、「啓風丸」は神戸を離れます。神戸から気象観測船の姿が消えるのは寂しいのですが、東京へ移ってもこれまでと変わらぬ活躍を続けてほしいものです。
(2007.12.9訪問/2010.3.26記)