塩屋天体観測所|プラネタリウム・天文台訪問記
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日本丸(初代) |
日本丸(二代) 2004年11月神戸港寄港時 |
日本の帆船の代名詞的存在の「日本丸」。実は航海訓練所の練習船で、未来の船乗りたちの実習航海に使われています。
初代日本丸は1930年に神戸の川崎造船所で建造されました。当初から練習船として活躍しましたが、戦後の引き揚げ船として使われたり、苦労の多い人生を歩んでいます。帆走のみでなく機関も積んでいて、搭載されたディーゼルエンジンの可動年数は世界一。ギネスブックにも掲載されているそうです。1984年に現役引退、現在は横浜港で一般公開されています。
二代目日本丸は1984年に住友重工浦賀造船所で建造。世界最大級の帆船で、帆走性能も世界有数の優秀船です。現役の実習船として、未来の船乗りを乗せ、世界の海を駆け回っています。
さて、航海術といえば切っても切れない縁なのが天文です。外洋で船の現在位置を知るためには、長いこと天測が使われてきました。星座にも測量器具の「ろくぶんぎ座(六分儀座)」があることから、その関わりをうかがい知れます。
2005年5月28日に初代日本丸、同6月5日に二代目日本丸を見学してきました。そんな中でかいま見た日本丸と天文の関わりをご紹介します。
日本丸ブリッジ |
ブリッジの黒板 |
初代日本丸は横浜港で一般公開中です。
まずはブリッジ。中央の操舵輪は機関で走っているときに用いるもので、帆走時は船尾の操舵輪を使います。それはさておき、ブリッジにある黒板。一目瞭然、日の出日の入り、月の出月の入り、月齢を記入する欄が表示されています。
六分儀 |
天測風景の写真 |
器具類の展示の中には、もちろん六分儀があります。製造は1919年。望遠鏡部はプリズムが組み入れられていないので、ガリレオ式のようです。分度儀部分を支える扇形の部分、曲線を多用した装飾風になっていますね。船内には天測風景の写真も飾られていました。
士官サロン |
天井のステンドグラス |
船の後部には士官サロンがあります。ちょっと上品な雰囲気です。
ここの天井に要注目。ステンドグラスがはめ込まれていて、その図柄がすごいんです。向かって左奥に南十字星、その手前に北斗七星。右側奥にさそり座(ちゃんとアンタレスが赤い!)、手前は北極星とオーロラ。星好きには感涙ものです。
星球儀 |
最後は「星球儀」。こちらは日本丸船内でなく、隣接するマリタイムミュージアムに展示されているものです。言ってしまえば天球儀ですが、天測の時に目標の星の位置を知るためのもので、記載されている星の数はちょっと少な目。おそらく天測時に使用する星の数に絞られているのでしょう。天測用の立体星座早見版というところでしょうか。よく見ると「TAMAYA」のロゴ。実は知る人ぞ知る、現行の六分儀製造メーカーです。
二代目日本丸は現役の練習船なので、なかなか内部を見学する機会はありません。各地に寄港する際に一般公開があり、神戸では2005年6月5日に見学会がありました。
講義を受けている実習生たち |
黒板に注目! 「天文航海演習」ですって。聴きたいっ! |
船内では実習生が講義を受けています。その脇をゾロゾロと大勢の見学者が通過していきます。好天の日曜日で、神戸港では最も人が集まる高浜岸壁での一般公開。外は30分待ちの行列が出来ているくらいの大人気で、見学者は数千人にのぼっていたでしょう。恐ろしい授業参観です。
さて、その講義。黒板を見たら、なーんと「天文航海演習」ですって。「六分儀の取扱い」「天測計算」って、おおっ、これは受講したいです。混ぜて〜っ。といっても私の場合、習ったところで使う機会はなさそうです。
GPSで簡単に経緯度が測れる現在でも、こうした基礎的なことはきちんと勉強しているんだなぁ、と感心しました。
デッキ掃除実演 |
六分儀体験 |
甲板上では椰子の実タワシを使ったデッキ掃除の実演から、帆船おなじみのロープワークまで、ちょっとした体験コーナーが設けられています。で、その中に六分儀体験コーナーもありました。
こういうものを見逃すわけがありません。さっそくお願いして覗かせてもらいます。
覗くとこんな感じ(イメージ) |
こんな状態です |
水平線に合わせるとこう見えます(イメージ) | こういう状態になります |
細かい説明は省きますが、上の図のような形で、星の高度を測ります。望遠鏡とミラーの他にもいろいろ付いていますが、これは遮光フィルターで、太陽や月を見るときに減光するためのものです。すばらしい説明が六分儀 航海計器のサイトにあるので、詳しくはそちらをご覧ください。
私に説明してくれた実習生は、そのあと太陽を測っていました。写真をよく見ると分かりますが、太陽をむいたミラーの前にちゃんと遮光板を入れてあります。揺れている船で測るのは大変ではないですかと聞いたら、意外に大丈夫ですということを話してくれました。
二代目日本丸にも天測実習の写真が展示されていました。実は、初代日本丸に飾られている写真と同じものなのは内緒です。
チャートルーム(海図室)に置いてあった双眼鏡。よく見たらフジノンの7×50双眼鏡でした。
長らく星見用に最適と言われてきたこのスペック、実はもともと、航海用の双眼鏡として戦前から使われてきたものです。射出瞳が人間のひとみ径の最大径7mmに合わせてあり、特に朝夕の薄明時や夜間に威力を発揮します。星見用としてはバックグラウンドが明るくなりすぎるため、最近はもう少しひとみ径の小さな双眼鏡が良いと言われるようになってきましたが、航海用ではやはり7×50が好まれるようです。
塗装が剥げるくらい使い込まれた双眼鏡。いい味だしていますね。
(2005.5.28(初代日本丸)・2005.6.5(二代目日本丸)訪問/2005.6.6記 福田和昭)