塩屋天体観測所プラネタリウム・天文台訪問記
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船の上の双眼鏡たち

 天文用としてよく推奨されるのが、倍率7倍・口径50mmというスペックの双眼鏡です。実はこのスペック、もともとは航海用として使われてきたものだという話があります。

 スペックはさておき、いまでも双眼鏡のカタログを開くと、バードウオッチングや天体観測とともに、航海用という用途が挙げられています。レーダーやGPSが一般化した現在でも、船乗りたちは本当に双眼鏡を愛用しているのでしょうか。

 その疑問を探るべく、様々な船に乗り込んでみました。

練習帆船「日本丸」

フジノン双眼鏡

日本丸(二代)2005年6月5日/神戸港

チャートルーム(海図室)の双眼鏡。フジノンの7×50

 日本の帆船の代名詞的存在の「日本丸」。航海訓練所所属の練習船です。海図室にあったのはフジノンの7×50双眼鏡でした。テプラで「チャートルーム」と打ち出したシールが貼ってあるのが、なんとも備品らしい雰囲気をかもし出しています。

実習船「深江丸」

実習船「深江丸」2006年7月16日/神戸港

「学生用」のニコン10×35E

 神戸大学海事科学部所属の練習船「深江丸」です。海事科学部はかつての神戸商船大学です。日本の海の男を育て上げた名門です。

 ブリッジに置いてあった双眼鏡はニコンの10×35E(EIIだったかも)。広角タイプの名機ですね。「学生用」というシールが貼ってありましたが、高級な双眼鏡に学生の頃から慣れていたら、社会人になってからが大変です。自分で揃えようとしても、値段を知って驚くのではないでしょうか。

左舷は旧タイプのII型

右舷は現行のIII型

 深江丸は500tほどで、それほど大きな船ではないのですが、実習船だけあって、設備は充実しています。

 ブリッジの両脇屋外にもきちんと双眼鏡が装備されています。ニコンの20×120で、双眼鏡というより双眼望遠鏡といった方がいいような大きさです。左舷は旧タイプのII型、右舷には現行タイプのIII型が据え付けてあります。もしかして予算の都合で一台ずつ買い足したのでしょうか。

地球深部探査船「ちきゅう」

 海洋技術開発機構所属の地球深部探査船、その名も「ちきゅう」です。映画『日本沈没』にも登場する船なので、スクリーンでその勇姿をご覧になった方もいらっしゃるでしょう。

地球深部探査船「ちきゅう」2006年6月/神戸港

Meiboブランドの15×80双眼鏡

 高さ130mという巨大な掘削櫓がトレードマークのこの船、ブリッジも高い場所にあります。

 そして、その両翼に添え付けられているのがフジノンの15×80双眼鏡。なぜかブランドはMeibo。「明眸」から名付けられたもので、フジノンのかつてのブランドです。現在も使われていたとは驚きでした。銘板には「FUJI」のロゴも刻まれています。

「ちきゅう」搭載の倒立顕微鏡

燦然と輝くツァイスマーク

 この「ちきゅう」は、掘り出した土壌サンプルを船上で分析できる研究室を備えているのですが、搭載している顕微鏡はことごとくツァイス製でした。

巨大クレーン船「海翔」

クレーン船「海翔」2006年7月16日/神戸港

かなり使い込んだニコンの7×50

 「海翔」は4,100tのつり上げ能力を持つ、日本最大のクレーン船です。神戸に拠点を持つ寄神建設が所有しています。一緒に写真に写っている客船「にっぽん丸」が2万トンクラス・全長170mほどの船ですから、「海翔」の巨大ぶりがわかると思います。実は「ちきゅう」の掘削櫓をつり上げたのが、この「海翔」です。

 前部の腕の付け根のあたりにブリッジというか、クレーンの操作室があります。

 そこに置いてあったのは、ニコンの7×50双眼鏡。現行のカタログにはないタイプで、かなり使い込まれた様子です。

海洋環境整備船「いこま」

海洋環境整備船「いこま」2006年7月17日/神戸港

高級双眼鏡がいっぱい

 海洋環境整備船という名称では何の目的か分かりませんが、ゴミ回収船です。国土交通省の所属で、主に大阪湾のゴミを回収するために活躍しています。双胴船で、胴体のすき間をゴミが通り抜けるときにすくい上げる仕組みです。

 この船が、双眼鏡の宝庫なのです。写真左から、ニコン10×70SP、ニコン7×50SP、ニコンの10×70IF(たぶん)、キヤノン防震双眼鏡12×36IS(たぶん)。三脚など見あたらなかったのですが、10×70を手持ちで使っているのでしょうか!? 恐るべし海の男たち。

 海上に浮かぶゴミを回収するのが仕事ですから、これらの双眼鏡は必須機材なのでしょうね。

ゴミ清掃兼油回収船「紀淡丸」

「紀淡丸」2006年7月17日/神戸港

年代物のニコン7×50 ニコン10×42HGの群れ

 船首がパカッと開いて、ゴミを食べるように回収するユニークな「紀淡丸」。老朽化のため、2006年度いっぱいの引退が決まっています。

 ブリッジには年代物のニコン7×50がポツンと置いてありました。……と、思ったら、テーブルの上にニコン10×42が3台も並んでいます。しかも全部HGじゃないですか。た、高いんですよ、これ。

水産庁高速型漁業取締船「白鷺」

「白鷺」2006年7月17日/神戸港

ニコン7×50SPが2台

 「白鷺」は水産庁の漁業取締船。高速型というだけあって。35ノット/時の快速を誇ります。

 ブリッジにはニコン7×50SPが2台、1996(平成8)年と1998(平成10)年購入の備品でした。普通の防水型に飽きたらず、SPを揃えるあたりが心憎いです。本当に予算不足で困っているのでしょうか? いえ、仕事柄、少しでも性能を追い求めたくなるのは分からないでもありません。

海上保安庁PLH型巡視船「せっつ」

 ここまで来たら、お次は海上保安庁です。

PLH型巡視船「せっつ」

ブリッジ脇のニコン20×120・III型

 PLH型巡視船「せっつ」。"P"はパトロール、"L"はラージ。分かりやすい略称です。"H"はヘリコプターで、名前の通り、艦尾にヘリポートとヘリの格納庫を装備、救難用のヘリを一機搭載しています。ヘリ搭載の巡視船は日本全国に13隻。各管区の旗艦のような位置づけです。

 ブリッジ脇にはニコン20×120のIII型です。実は天文科学館にも同スペックの双眼鏡がありますが、使用環境は海保の方が遥かに過酷。天文科学館では冷暖房完備の部屋に置かれているのに、「せっつ」では潮風吹きさらし。同じメーカーでつくられたのに、運命というのは過酷なものです。

塗装が剥げまくった7×50

7×50と倍率不明70mm機

 ブリッジ内にもたくさん双眼鏡がありました。7×50がほとんどですが、中には70mm機も。メーカーは確認しなかったのですが、見た感じ、ニコンのIF機か、フジノンの旧タイプのIF機だと思います。みんな塗装はボロボロ。使い込んでますねぇ。

護衛艦「はたかぜ」

 もう行き着くところまで行くしかありません。最後は海上自衛隊です。

護衛艦「はたかぜ」2006年7月15日/神戸港

対艦砲じゃなくて対空砲だとか

 いかにも鋭利な刃物といった印象のこの船は、海上自衛隊の護衛艦「はたかぜ」です。市井の一民間人がこんな船に立ち入ってしまってよいのでしょうか?

 「はたかぜ」は、小説『亡国のイージス』に登場する「いそかぜ」のモデルになった船です。このタイプの船にイージスシステムを搭載した設定です(映画に出てくるのは実際のイージス艦)。

 その護衛艦に搭載されている双眼鏡はといいますと。

左舷側

右舷側

 12×20と思われる双眼鏡がブリッジの両脇に据え付けられていました(倍率は20倍ですが、口径が不明)。いかにもゴツくて、軍用の雰囲気をかもし出しています。かもしだしているんじゃなくて、軍用そのものですね。

 てっきりニコンかと思ったのですが、メーカーが分からないのです。銘板を見たら知らない会社の名前が刻まれていました。後で確認するために銘板の写真を撮ろうと思ったのですが、脇に自衛官がずっと立っていたので、遠慮しちゃいました。だって、一般人と違うところばかり写していて、スパイだと思われたら困るじゃないですか。

 ちなみにブリッジにあった双眼鏡はこれ。7×50ですが、メーカーはケンコーです。砲雷長から航海長から、全員同じ機種。

 ニコンかフジノンの製品とばかり思っていたので、意外でした。最近はケンコーもいい製品を作るようになってきたと聞きますので、コストパフォーマンス重視の選択なのかもしれません。そう、日本の防衛は、ケンコーに託されているのです。がんばれ〜

おしまい

 しかし、出てくる双眼鏡全部が、星見に使えそうなものばかりなんですね。払い下げるときにはぜひお声掛けいただきたいものです。

(2005.6.5〜2006.7.17訪問/2006.9.5記 福田和昭)

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