塩屋天体観測所|プラネタリウム・天文台訪問記
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VERA小笠原観測局は、東京都小笠原村父島の夜明山にあります。
天体望遠鏡は口径が大きければ大きいほど、細かいところまで見ることが出来ます。電波望遠鏡では、離れた場所の電波望遠鏡をつないで観測すると、電波望遠鏡の距離を口径としてより精密な観測が出来ます。色々な工夫をして、うんと離れた望遠鏡をつないで超精密な観測をするのがVLBI(Very Long Baseline Interferometry)。
「VERA(VLBI Exploration of Radio Astrometry)」は銀河系内の電波天体の位置を精密測定して、銀河系の地図を作っています。地道に電波源の年周視差を測定しているのですが、電波望遠鏡間の距離が遠いほど精度が上がるので、水沢(岩手)、入来(鹿児島)、石垣(沖縄)、小笠原と、国内各地に4つの電波望遠鏡が分散して設置されています。関西からは行きにくい場所ばかり……
まだNASDAのままなんですね |
濃い緑の向こうのパラボラ |
電波望遠鏡はたいてい人里から離れた場所にあるものです。VERA小笠原局も例外ではありません。小笠原自体が人里離れてると思われそうですが、実は父島には2,000人ほどの人々が住んでいます。
国立天文台のパラボラまで、街の隅から3.8kmあります。この3.8kmは全て山道なので、歩いたらたぶん1時間半くらいかかるんのではないかと思います(想像)。
実はこの日、2009年7月22日の皆既日食の翌日。乗船した船のオプショナルツアーに「VERA小笠原局見学」コースがあって、それに応募しておきました。港からマイクロバスで送ってくれるので楽々です。
中央の入江が二見港 |
向こうは兄島 |
港からマイクロバスで坂道を登り、青い青い小笠原の海を眺めながら山を登ります。
そんでもって、やってきました。VERA父島観測局。20mパラボラ鏡が青空に映えます。
パラボラ中央に突き出たフィドームがチャームポイント |
割とがっちりした印象です |
まずは観測室に招かれるのですが、とりあえずパラボラを見つめておきます。ディッシュの中央にポコッと蒸しパンのようなフィドーム(小さなドーム)が突き出ています。VERAのパラボラに共通のもので、外観上のチャームポイントです。
このフィドームの中には、同時に2つの天体を観測できる受信機が収められています。大気の揺らぎの影響を押さえて、さらなる高性能化を測る「相対VLBI」の工夫の一つです。
観測棟 |
平屋のシンプルな建物です |
日食マップが貼ってあるのは時節柄 |
玄関常備のヘルメット |
観測棟は平屋のシンプルな建物です。これもVERAの施設で共通の設計のようです。
入口に日食のポスターが貼ってあるのは、2009年7月22日の日食の名残。父島では最大食分0.98という大部分食でした。
玄関には望遠鏡とパンフレット群 |
観測棟内 |
観測棟内もあっさりした作りです。右側の写真が電波望遠鏡の制御を行う部屋。望遠鏡の制御は水沢からも出来るそうですが、サービスでぐるぐる回していただきました。
湿気の多いこの時期、電波望遠鏡はシーズンオフで、観測をお休みして機材の調整などをすることが多いのです。小笠原のパラボラも、養生シートがあちこちに貼られて、お手入れの真っ最中でした。
時計と風向風力表示計 |
ライトアップのスイッチ |
時計の時刻はUTになっていました。風向きと風力は巨大な面積を空にさらすパラボラアンテナにはとっても重要です。
このパラボラはオレンジ色にライトアップされるのですが、事前に役場に連絡しないと山火事に間違えられるみたいです。こういうシールが貼ってあるってことは、たぶん「前科」があるのでしょう。
この子が気になる |
原子時計の部屋 |
ロッカーの上のこれが気になるんですけど、これは国立天文台のペーパークラフトですね。現物が目の前にあるのにペーパークラフトを置いておくなんて、お茶目です。しかも拡大してつくってますし。
右写真は、隣の原子時計の部屋。VLBIをやるには互いの電波望遠鏡のデータを超高精度の時刻で付き合わせる必要があるので、原子時計はとっても大切なものです。でもこの写真の手前に写っているのは、原子時計じゃなくて無停電電源装置でした。いや、それはそれで大切なものです。
バックエンド室 |
ご自慢のテープレコーダー |
磁気テープ |
磁気テープの群れ |
バックエンド室は、電波望遠鏡で得たデータを処理して、磁気テープに記録する部屋です。
今どき磁気テープ(一本80分)!? と驚きますが、これまではデータの容量からすると、これが一番だったのだとか。伝送すれば良さそうなものですが、ここは小笠原。父島でISDNがやっとこのインターネット環境(2009年現在)では、とても大容量のデータのやり取りは出来ません。
で、ある程度テープを貯めたら、週一便の「おがさわら丸」で東京に運ぶのが、一番早いデータ輸送手段なのだそうです。まさか今どきのVLBIに、こんなアナログな部分が介在していたとは。
ただ、磁気テープもメーカーがそろそろ製造終了ということで、記録はそろそろハードディスクへ移行。それと光ファイバによる伝送も間近だということです。光ファイバで全てのデータを送るには至らないそうですが、観測が成功したかどうかのチェックがすぐ出来るだけでも十分ありがたいのだとか。
ちなみに、石垣・入来・小笠原・水沢の4ヶ所のデータを三鷹に集めて処理して、はじめてVLBIの観測結果が出るそうです。
VERAの観測成果 |
「かぐや」への協力 |
バックエンド室の隣はパネル展示のスペースになっていました。VERAの観測成果や、月探査衛星「かぐや」プロジェクトとVERAの関わりについての説明がありました。
観測中です! |
「かぐや」関係資料 |
そのなかにコーンで仕切られて「観測中です!」と貼り紙が貼られた一角。怪しげな箱の中には重量計が入っていて、潮汐変化を計測しています。VERAの精度を出すためにはアンテナの位置をmm単位で決める必要があるのですが、じっとしているようでも地球潮汐で毎日周期的に10〜30cm移動しているのです。
右の写真は「かぐや」の関係資料。かぐやの模型に月球儀、そしてJAXAからの感謝状が展示されていました。月面の重力異常を計測するためのVRAD衛星「おうな」の位置を正確に測定するために、VERAも一役買ったそうです。
上を向いて歩こう。って歩きません。
水平駆動部 |
仰角駆動部 |
製造は三菱電機 |
親子(違うっ!) |
銘板によると、正式名称は「天文広域精測望遠鏡アンテナシステム」だそうです。そのまんまといえばそのまんまの命名。
以上、VERA小笠原観測局の見学記でした。
(2009.7.23訪問/2009.8.12記 福田和昭)