塩屋天体観測所プラネタリウム・天文台訪問記
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ZEISS JENA ZKP-1 を見てきました(岐阜市科学館)

日本のツァイス・プラネタリウム

 プラネタリウムの生みの親、カールツァイス社は、ドイツが戦後東西に分断されていた間、会社も東西に別れていました。旧西ドイツがカールツァイス社、旧東ドイツがカールツァイス・イエナ社です。

 日本にやってきたツァイス社の大型プラネタリウムは5台ありますが、大阪市立電気科学館と東日天文館のツァイスII型が戦前のカールツァイス社、五島プラネタリウムと名古屋市科学館のツァイスIV型が西独カールツァイス社、そして明石天文科学館の Universal23/3型機が東独カールツァイス・イエナ社製となります。

 なんだか明石だけ東独製でさびしそうですが、戦前のツァイス・プラネタリウムもイエナでつくられていましたので、そんなことはありません。

 それに実は、日本にはあと2台、カールツァイス・イエナ社製のプラネタリウムがあったのです。

 それが小型投影機「ZKP-1」型。世界中に257機も納入された名機です。 

ZEISS JENA ZKP-1

 このZKP-1型、日本では岐阜プラネタリウムと旭川市青少年科学館に納入されています。岐阜の投影機は1984年に引退しましたが、旭川では2005年1月30日まで現役で動いていました。

 ということで、ふつうなら旭川までZKP-1型の現役最後の姿を見に行くところですが、残念ながら北の大地に足を運ぶ余裕もお金もありません。そこで関西からなら日帰りも可能な岐阜のZKP-1型を見に行ってきました。

岐阜市科学館外観
岐阜市科学館

岐阜市科学館

 このZKP-1投影機ですが、もともとは1958年4月、岐阜市水道山にあった「岐阜プラネタリウム」に設置。その後1984年11月まで稼働し、引退。その後は現在の岐阜市科学館に展示されています。

 その岐阜市科学館、JR西岐阜駅から徒歩15分ほどの、岐阜市の郊外にあります。

最先端のコンピューター内蔵ロボット 巨大惑星儀展示
「PC-6601SR WORLD」だそうです。
いつの機械だ……!?
これぞプラネタリウム(惑星儀)

 自然系の総合科学館なので、天文だけでなく、物理・生物・化学・地学と一通りの展示があります。開館以来、大規模なリニューアルは行われていないようで、ちょっと年代を感じさせる展示物も多いのですが、ギフチョウの展示が目を引きました。

 面白かったのは上の右側の写真の惑星儀。中央の黒い台に乗ってボタンを押すと、台と天井の惑星がズゴゴゴゴッと回転を始めます。惑星を展示するものという意味で、プラネタリウムそのものです。

 天文関係では屋上に50cm反射望遠鏡があり、プラネタリウムはコニカミノルタの初代インフィニウムが設置されています。日中も昼間の星を見る観望会が行われていて、私が訪問した日は薄曇りだったのですが、太陽黒点を見せていただきました。

お目当てのZKP-1

ZKP-1投影機の展示ケース
展示されているZKP-1投影機

 で、肝心のZKP-1投影機です。

 が、この投影機の展示、館内案内にも何にも出ていません。

 わざわざこのために岐阜までやってきたというのに。

 ……って、引退した投影機を見に来る物好きなんてそんなにいないでしょう1)

 2階の一番奥の方に、それはありました。

 緑色のフレームのガラスケースに、鎮座されておられました。

 「ち、小さい……っ」

 そうなんです。明石のツァイス投影機を見慣れた目からすると、ウソって思うくらい小さいのです。本体だけなら両手で抱えられそうなサイズ。

 「持って帰りたいっ!」

 いえ、決してそんな不埒な考えを頭に浮かべたりはしませんでした。本当です。

1)明石の星の友の会で先に見に行った方がおられます。物好きは私だけではありません。

いろいろ観察

ZKP-1投影機全景 シリアルナンバーは73
投影機全景。 シリアルナンバーは73。
イエナのロゴの下に刻まれています。

 ZKP-1の恒星投影機は1つで、基本的に北半球専用です。

 日周運動と歳差運動は再現できますが、緯度変化の運動機構はなく、あらかじめその土地の緯度に設定して固定することになります。惑星投影機は、恒星投影機の下にあるのですが、ギアはなく、日々の位置を考慮しながら手動でセットする必要があります。とってもシンプルな投影機です。

 機構丸出しのデザインなのですが、そこはツァイス。緩やかな曲線に包まれた日周運動軸のカウンターウェイトといい、モーターが収納されている球形のカバーといい、無骨さばかりを感じさせないのはさすがです(ひいき目)。

下から見た投影機 緯度変化設定部分
 下から見た投影機。手前の出っ張りがたくさんある円盤が惑星棚のようです。  緯度変化の設定部分。いちおう0度から北緯90度までの設定は出来ます。ただし天の南極は映りません。

 この投影機でうれしいのは、ガラスケースの外側のテーブルにボタンが付いていまして、押すと日周運動軸がグルグル回転するのです。簡単な機構とはいえ、ツァイス・プラネタリウムを自らの手で動かせる感動が味わえます(大げさ)。

 先にも書きましたが、日本に輸入されたもう一台のZKP-1型投影機(旭川市青少年科学館)も、2005年1月末に引退してしまったため、日本でこの投影機の星空を見ることはもう出来ません。小型機ながら恒星像も天の川も美しいものだったそうです2)

2)明石も名古屋も引退した五島もそうですが、ツァイス・プラネタリウムの天の川の表現はとてもきれいです。

日本のツァイス・プラネタリウム一覧

 日本にあるカールツァイス製のプラネタリウム、簡単ながら一覧表をつくってみました。空襲で焼失した東日天文館のII型を除けばいずれも長寿で、また引退後も大切に扱われているものばかりです。

 プラネタリウムの本家本元からやってきた投影機たち。これからもがんばってほしいものです。

設置館 投影機 設置年 現況 稼働期間(左端が1930年・右端が2010年) 備考
大阪市立電気科学館 ツァイスII 1937 1988引退 大阪稼働期間  日本最初のプラネタリウム。世界に3台しか現存しないツァイスII型。大阪市立科学館で静態展示中。
東日天文館(毎日天文館) ツァイスII 1938 1945焼失 東日稼働期間  太平洋戦争末期に、米軍の空襲により焼失。
五島プラネタリウム ツァイスIV 1957 2001引退 五島稼働期間  五島プラネタリウム閉館後、渋谷区に寄贈。渋谷区ケアコミュニティ桜が丘に保存(非公開)。
岐阜プラネタリウム ZKP-1 1958 1984引退 岐阜稼働期間  岐阜市科学館に展示中。
明石市立天文科学館 Universal23/3 1960 現役 明石稼働期間  現役日本最古のプラネタリウム。阪神・淡路大震災を乗り越え、活躍中。
名古屋市科学館 ツァイスIV 1962 現役 名古屋稼働期間  現役。日本トップクラスの入館者数を誇るプラネタリウム。
旭川市青少年科学館 ZKP-1 1963 2005引退 旭川(初代)稼働期間  新科学館の建設に伴い、引退。
(新)旭川市青少年科学館 ZMP Starmaster 2005 準備中 旭川(二代)稼働期間  2005年7月開館予定。40年ぶりに日本に導入される最新のツァイス・プラネタリウム。

参考文献:『地上に星空を』,伊藤昌一, 裳華房(1998)
「プラネ旅ウム 9 カールツァイス・イエナ ZKP-1」,長尾高昭,135°の星空 No.124(2003)
(2004.12.23訪問/2005.2.6記 福田和昭)

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