塩屋天体観測所街中で星を見るために
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街中で星を見るために・双眼鏡編

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 星空を楽しむために、ちょっとした小道具があると、いろんな世界を見渡すことができます。
 双眼鏡もそんなものの一つ。
 双眼鏡というと、バードウォッチングなどの自然観察や、船乗りが遠くのものを眺めるのに使うようなイメージがあります。
 それで星が見えるのか、と思ってしまいますが、実は双眼鏡、望遠鏡を2本並べたものなんですよね。
 空に向けると、星たちのちょっと違った姿が見えるんです。
 もし、お手持ちの双眼鏡があれば、一度試してみて下さい。

双眼鏡で星空を

 双眼鏡を使うとより楽しめる天体として、以下のようなものがあります。

 双眼鏡で月のクレーターが見える、というと、「ほんまかいな?」と思われるでしょうが、これが意外に、月の欠け際の辺りを見ると、ちゃんと見えています。

 木星の衛星も、意外に見えるものの一つです(明るい木星のすぐ脇なので、三脚などに双眼鏡を固定する必要があります)。

 肉眼では見えなかった暗い星も、双眼鏡なら見ることが出来ますので、空が明るくてわかりにくかった星座をたどるのも楽しいです。星雲・星団も、双眼鏡で見つけられるものがいくつかあります。

 それでは、双眼鏡での星空探訪を始める前に、ちょっとだけコツみたいなものを覚えておきましょう。

双眼鏡の種類

 「双眼鏡を持っている」という人は、それほど多くないとは思いますが、「天体望遠鏡を持ってるよ」という人よりは多いと思います。

 双眼鏡にもいくつかタイプがありますが、およそ下の写真のようなものではないでしょうか。

フラットタイプ双眼鏡 コンパクトタイプ双眼鏡 本格的なポロプリズムタイプ双眼鏡
フラットタイプの双眼鏡(イメージ) コンパクトタイプの双眼鏡 けっこう本格的な双眼鏡
 携帯性に優れた機種で、観劇などの目的で使われます。星を見るのには少し力不足ですが、ま、試してみてください。  小型双眼鏡の多くはこんな形をしています。少し小さめではありますが、意外に星も楽しめます。  ちょっと大ぶりな双眼鏡で、航海用や星見の目的でつくられたもの。かなりの星が楽しめます。

 双眼鏡や望遠鏡は、遠くにあるものを拡大してみる道具と思われがちですが、星を見るときには、もっと大切な役割があります。それはレンズを使ってより多くの光を集めること。星からの光はとってもかすかなものですが、より多くの光を集めることで、肉眼では見えなかった星が見えるようになり、より深く、星空を楽しむことが出来ます。

 双眼鏡も立派な光学製品です。性能を確認するために、必要最小限のことだけ押さえておきましょう。

「口径」と「倍率」

 「口径」は耳慣れない言葉かもしれませんが、対物レンズの大きさのことです。これと倍率が、双眼鏡の性能を決める基本の数字。ほとんどの双眼鏡には、本体のどこかに口径と倍率が記されています。

8×24双眼鏡表示 7×50双眼鏡表示
8倍24mmの双眼鏡 7倍50mmの双眼鏡

 「8×24」「7×50」という掛け算のような表記がそれで、8×24なら倍率8倍・口径24mm、7×50なら倍率7倍・口径50mmという意味です。

大切なのは「口径」

 双眼鏡でも望遠鏡でも、「これは何倍ですか?」と訊ねられることが多いのですが、星を見るためには実は倍率よりも口径、つまり対物レンズの大きさの方が大切です。

 なぜかといいますと、下の図を見て下さい。

口径25mm模式図 口径50mm模式図
口径25mmのレンズ 口径50mmのレンズ
 これでも肉眼の約13倍の光を集めています。肉眼より2.8等暗い星まで見ることが出来ます。  星見用の双眼鏡の定番、口径50mmのレンズ。肉眼の51倍の光を集め、肉眼より4.3等暗い星を見ることが出来ます。

 簡単なイラストですが、左がコンパクトタイプの双眼鏡に多い口径20mm台の対物レンズ、右が星見用に勧められることの多い口径50mmの対物レンズです。右側の方が、より多くの光を集めていることがわかります。その分、弱い光も強調されて、より暗い星まで見ることができるわけです。

 実際に星空を見たときにはどんな違いになるでしょうか。次の図は街中で「すばる」を見たときのイラストです。

25×7で見たすばる 7×50で見たすばる
25mm・7倍の双眼鏡で見たすばる 50mm・7倍の双眼鏡で見たすばる
 肉眼ではぼんやりした星のかたまりにしか見えませんが、双眼鏡なら星の集団であることがわかります。  見ているのは同じ範囲ですが、よりたくさんの星が見えてきました。双眼鏡での星空名所です。

 左側が口径25mm、右側が口径50mmの双眼鏡です。倍率は同じ設定で、見ている範囲も同じですが、大きな口径の双眼鏡の方が、よりたくさんの星を確認できるのがわかります。

 星を見るためには、だいたい口径30mm以上の双眼鏡が欲しいところ。でもそれより小さな口径でも、それなりに肉眼とは違った星空を楽しめますので、お手元に双眼鏡のある方は、ぜひ夜空で試してみてください。

「倍率」の違いは

 次は同じ口径で、倍率の違う双眼鏡を比べたイラストです。どんな違いがあるでしょうか。

7×50で見たすばる 10×50で見たすばる
50mm・7倍の双眼鏡で見たすばる 50mm・10倍の双眼鏡で見たすばる
 倍率の高い天体望遠鏡より、双眼鏡で見る方が、星団らしさを味わえる天体です。  倍率が高くなった分、少し大きく見えるようになりました。反面、手ブレの影響は受けやすくなります。

 同じ口径50mmの対物レンズで、7倍と10倍のものを比べた様子です。倍率の高い方が星の並びが大きく見えますが、星の数自体はそれほど変化がありません。同じ口径であれば、もっと倍率の高い双眼鏡であっても、この傾向は変わりません。

 「それでも大きく見える分、倍率が高くてもええんとちゃうか?」という人もいるかもしれません。ところが、手持ちで使えるのは、せいぜい10倍が限度といわれています。あまり倍率を高くすると、手ブレでユラユラ揺れてる分も拡大されて、かえって星が見えにくくなってしまうのです。一般には7〜8倍が、使いやすい倍率として勧められることが多いようです。

 20倍〜120倍なんていう高倍率のズーム双眼鏡が、通信販売やディスカウントストアで売られています。私も店頭で覗いたことがありますが、これは全く使い物になりません。もし双眼鏡を買うつもりであれば、間違っても倍率にだまされないようにして下さい。

双眼鏡の使い方

 双眼鏡ですが、意外に使い方がよく分からないまま覗いている人も多いようです。

 簡単に、使い方をおさらいしてしまいましょう。

1.眼幅を合わせる
 右目と左目の間隔は、人によって差があります。双眼鏡を覗いてみて、左図のように見えたら、眼幅が合っていない証拠です。きちんと眼幅が合うと、右図のように一つの円に見えます。
眼幅ずれてる状態 眼幅合致状態
眼幅があっていない双眼鏡 眼幅があっている双眼鏡
 ほんとは左右のかげっている部分がチカチカして見えます。すごく目が疲れます。  きちんと眼幅があっていれば、左右同じ範囲がきっちり重なって見えます。

 ちなみにテレビや映画では、双眼鏡を覗くシーン、左図のように描かれることが多いのですが、本当はこれ、間違いです。そのおかげか、眼幅が違っているのに気づかないまま双眼鏡を覗いている人も多いのですが、ちょっと困ったものです。

2.ピントを合わせる
 眼幅を合わせたら、ピントを合わせましょう。たいていの双眼鏡は、中央部にピントを合わせるつまみがあります。一番はっきり見えるところ、星ならしっかり点に見えるところまで回して下さい。
 遠視の人・近視の人など、人によってピントの合う位置は違いますので、何人かで使いまわすときは、自分が使うごとに合わせ直して下さい。
 
3.視度調整をする
 視力検査をすると、左右の目の視力が違う人、多いと思います。そんな人は双眼鏡を覗くときも、左右の目でピントの合う位置が違ってしまいます。
 そのため、ていねいにつくられた双眼鏡では、「視度調整」のつまみがついています。
普通の視度調整つまみ 真ん中にある視度調整つまみ
一般的な視度調整つまみ 真ん中にある視度調整つまみ
 多くの双眼鏡は、右側の見口に視度調整つまみが付いています。  最近の双眼鏡では、中心軸に視度調整つまみが付いているものもあります。

 この場合、最初は左目だけで双眼鏡を覗き、中央のピントつまみでピントを合わせてください。次に右目だけで覗くと、左右の視力が違う人は、少しピンぼけになっているはずです。今度は視度調整のつまみを回して、右目のピントを合わせます。これで両目ともバッチリ、ピントのあった状態で星空を楽しめます。

 自分だけで双眼鏡を使う場合は、視度調整は一度済ませれば、次から中央のピントつまみを回すだけで大丈夫です。

 視度調整をするときは、対物レンズに片方ずつキャップをはめるか、片方ずつ手で隠して行うようにしましょう。片目ずつつぶると、開いている目が細目になってしまい、正確なピントが出にくいのです。

眼鏡をかけている人は

 現代の日本では、多くの人が眼鏡のお世話になっています。私の職場でも、約半数が眼鏡の着用者。

 ところがこの眼鏡、双眼鏡を覗くときは、思わぬじゃまになることがあります。

視野ケラレ状態 全視野見えている状態
視野の一部しか見えていない状態 きちんと視野を見渡せる状態

 眼鏡をつけたまま双眼鏡を覗くと、左のように視野の全体が見渡せないことがあります。こんなときは、見口に付いているゴムを折り返して使いましょう。

ゴム見口・裸眼 ゴム見口・眼鏡
見口のゴム 折り返した様子
 裸眼で見るときは、このまま使います。  眼鏡をかけたまま見るときは、ゴム製の見口を折り返した方が、視野全体を見やすくなります。

 右の図のように、見口を折り返すことで、眼鏡をかけた状態でも、視野全体を見渡しやすくなります。

 最近の双眼鏡では、スライド式の見口も増えてきました。この場合、裸眼で見る人は見口を引っぱり出した状態で、眼鏡をかけた人は見口を押し込んだ状態で見ることになります。

スライド式見口・裸眼 スライド式見口・眼鏡
引っぱり出したスライド式見口 押し込んだ状態のスライド式見口
 裸眼で見るときは、この状態にして使います。  眼鏡をかけたまま見るときは、この状態で使います。

 近視や遠視の場合は、ピントと視度調整さえしっかりすれば、眼鏡を外して双眼鏡を覗いても大丈夫です。乱視の人や、裸眼でピントが合わない場合は、眼鏡をかけたまま覗くことになります。

街中で双眼鏡を使う

 街中で双眼鏡を使って星空を見る場合、基本的に注意すべきことは、肉眼で空を見るときと一緒です。ここではプラスアルファになる部分だけ、記しておきます。

街灯を避ける
 近くに街灯があると、双眼鏡で星を見るときもじゃまになります。とくに目と見口の隙間に横から入ってくる光がやっかいで、像が見えにくくなる原因になります。裸眼の人は見口を伸ばして使うことである程度避けられますが、眼鏡を使っている人は、街灯の陰になる場所で星を見るか、双眼鏡を持つときに、手で眼鏡の脇を覆い隠してみてください。
 
手ブレを減らす
 最近ではビデオカメラでも手ブレ防止機構が標準装備されていますが、双眼鏡でも手ブレの影響があります。きちんと両手で持ち、脇を締めて眺めましょう。壁や塀にもたれかかって見るのも、ブレ防止に効果があります。手頃な柵があったら、そこに双眼鏡を乗せてしまうのもよいでしょう。
 
見るのは空だけに
 なにせこのご時世のこと、夜の街で双眼鏡を持って外を歩いていれば、怪しい人物と見間違えられる可能性もあります。そうでなくても、人の家を見るのはマナー違反。見るのは空の星だけにしておきましょう。

三脚を試してみる

 手ブレがあると星が見えにくいのですがが、三脚に双眼鏡を固定すると、ほぼ確実に手ブレをなくすことが出来ます。三脚は頑丈なものがよいですが、お手持ちのものがあれば、それを使ってみてください。ただし、双眼鏡を取り付けるためのアダプター(ビノホルダーとも言います)を別途用意する必要があります。

 ビノホルダーは汎用品で1,500円程度から、専用品だと10,000円近くするものもありますが、ほとんどの双眼鏡は中央ネジ止め式の汎用品で間に合うでしょう。取扱説明書などで確認してください。望遠鏡専門店なら在庫があると思いますし、カメラ店でも取り寄せできると思います。

ビノホルダー 三脚に付けた双眼鏡の写真
三脚取り付けアダプタ-(ビノホルダー) 三脚に取り付けた双眼鏡
 左は中心軸を押さえるもの、右は中心軸にあるネジ穴を利用するもの。多くの双眼鏡は、右のタイプのアダプタで三脚に取り付けできます。たまに専用品が必要なものもあるので、説明書を確認するとよいです。  手持ちで見るより、くっきりと星が見えるようになります。手ブレがないとこんなに違うものか、と思われるでしょう。見えている星の数もずっと増えます。

 三脚を使うと、ずいぶんくっきり星が見えるようになりますが、双眼鏡本来の特徴である、見たいときに見たい方向をすぐに見ることが出来るというメリットが失われてしまいます。

 もう一つ、構造的に頭の真上、天頂方向を見ることがほぼ不可能になります。それでなくても上の方を見るときは無理な姿勢になるので、首が痛くなること間違いなし。

 それでもしっかり双眼鏡を固定すると、月のクレーターや木星の衛星など、細かいものを観察するときに、くっきりした像の威力を発揮します。また、星雲・星団を観察するときも、手持ちのときは見えなかった微光星が見えてきます。

 欠点を補うだけのメリットは十分ありますので、余裕のある方は、三脚に取り付けるアダプター、一つ用意しておくとよいと思います。

 ということで、お手元に双眼鏡のある人は、一度使い方、再確認してみてください。「こんなに星が見えたっけ」と思うくらい、よく見えるようになるかもしれません。

 もともと正しい使い方をされている人には、あまり変わり映えしないかもしれませんが……

※掲載した星空の様子は「ステラナビゲーター Ver.5」(AstroArts)を使用して作成しました。

(2002.5.23記/2005.6.13追記 福田和昭)

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