塩屋天体観測所|プラネタリウム・天文台訪問記|明石星の友の会活動紹介・海賊版
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ドームに入ると、こちらも中の様相が一変。
左写真、普段は車椅子スペースになっている場所を利用して大きな作業台が設けられています。そして右写真、投影機の台の下に巨大な工具箱。
台の上で作業をしているのはヒューゴ・メラクレさん。ツァイスプラネタリウム部門のサービスエンジニア。精密光学と機械工学のマイスタークラフトマンの資格を持つベテランで、明石に来るのは3回目とのこと。渋谷の五島プラネタリウム(Zeiss IV型)や名古屋市科学館(Zeiss IV型)のオーバーホールも手がけてきたそうです。
オーバーホール作業内容についての解説は、天文科学館で投影機のメンテナンスを担当している松下さん。
まずはギアボックスとスリップリングの説明からスタート。左写真がギアボックスで、この奥に直径40cmの投影機最大のギアがあって、そこにつながっているそうです。日周運動を司る部分とのこと。
右写真は日周運動のスリップリング。プラネタリウムの光源には電気が供給されていますが、これをコードで配線すると、投影機が回転するに従って絡まって、やがて断線してしまいます。そのため投影機では、電車の架線とパンタグラフに相当する仕組みを使っているのですが、それがスリップリング。架線に当たるのが幾重ものリングで、右写真中央の金色の円筒状のものにパンタグラフに当たる接点部が付いています。これも隙間までぜんぶ掃除したのかと思うと頭が痛くなりそうです。
同じ場所を引いて見たのが左写真。中央の変形五角形の開口部がギアボックスで、その左側の真鍮色の光沢部がスリップリングです。スリップリングのカバーは今回の見学会にあわせて、中が見えるよう外して下さったとのこと。
右写真は同じ部位を2007年に撮影したもの。角度が違うので比較しにくいのですが、真ん中の「JENA」のプレートがある部分がギアボックスの覆い。またスリップリングにもカバーが掛かっています。
こちらは恒星投影球。分解清掃したレンズ等の組み付けもほぼ終了した状態になっていました。右写真は2007年に撮影した同じ部位。
ほとんど変わらない姿ですが、よく見ると左の写真では地平線下を覆うシャッターが外されたままなのが分かります。
恒星投影球のレンズは南北合わせて32組ありますが、一つ一つが相当な重さなので、例えば南側を6つ外したら、次は北側を6つというように、バランスを取りながら付け外しを行うそうです。
恒星原板は2002年のオーバーホール時に更新したので、今回は変更なしとのこと。見学者向けにおうし座付近の原板を展示してありました。恒星原板は薄い銅板を加工して恒星の位置に穴を開けています。一等星のアルデバランをオレンジ色に着色してあることや、変光星のアルゴルは変光星投影機で映しだすので原板は黒く遮光してあることが説明されています。
掃除道具の群れ。ドイツのものから日本のものまで各種取りそろえてあります。そして足下のケースには大量の布と脱脂綿。拭きまくったのでしょうねぇ。
こちらは工具箱。パッと見、なにに使うか分からないような工具もあるのですが、木製の箱に整然と並んだ工具はそれだけでかっこよく見えます。
解説台から投影機を操作するメラクレさん。明石のコンソールはツァイスオリジナルのものではなく、1990年のオーバーホール時に国産のミノルタ製のものに交換されています。2002年はこちらのオーバーホールもしたのですが、今回は投影機本体のみ。
「彼らは何かあっても自分たちで直せる自信があるからか、大胆な操作をします」とは天文科学館の松下さんの弁。
レンズの清掃をしているのはハンス・コッペンさん。明石に来るのは初めてですが、京都大学飛騨天文台の望遠鏡の設置作業で日本に滞在したこともあるそうです。プラネタリウムのサービスも担当し、やはり精密光学と機械工学のマイスタークラフトマンの資格を持つベテランです。
清掃しているのは恒星投影球の集光レンズ。投影機の心臓部です。
緊張感が張りつめる中でのレンズの手入れに、思わず息を飲みました。
手元を照らす照明に露出が合っているので周囲が真っ暗のように写っていますが、実際は周りも明るいです。
天文科学館のスタッフが口をそろえて感心していたのが、2人の技師の道具の置き方。すべての工具類が、整然と並べられています。置くべき場所に置くことを仕事の中で身につけるそうです。
面白いのが、ここに並べられたドライバーのほとんどがマイナスドライバーだということ。プラスドライバーはアメリカ源流の規格なので、もともとのツァイス投影機には使われていないそうです。むかし明石のスタッフが修理の際にプラスねじを使ったところ、オーバーホールの際に見つかって「何でこんなものを使うんだ」と怒られたという話もあるのだとか。現在ではなるべくオリジナルを尊重する方針で、ふだんのメンテナンスの際も基本的にマイナスのねじを使っているそうです。
日本とドイツの工業規格の違いでは、たまに「M7」のねじが使われています。ホームセンターのねじ売り場へ行けば分かるのですが、日本で売られているメートルねじは「M5」「M6」「M8」「M10」というぐあいで、「M7」はまずありません。かつて調達に大わらわになったことがあるそうです。
こちらの作業台はオイルやグリスがいっぱい。
分解した投影機の部品は、まず汚れを落とすことから始まります。オイルを指すのは日常のメンテナンスですが、グリスアップはオーバーホールの時に行います。ツァイス印のグリスの容器が置いてありました。
左写真は電球がいっぱいのトレー。右写真、座席の間にあるのは平均太陽リング。北天側についていて、首飾りのように見える部分です。
机の上にあるのは投影機のマニュアル? 設計図? 容赦なくドイツ語なので読めませんが、図が多いのでどこの説明かはなんとなく分かります。右写真、このテーブルでばらされているのは、星座名投影機とみました。
あっという間に見学時間終了。名残を惜しむようにドームをあとにします。次に会うときは、すっかりピカピカになった投影機が出迎えてくれることでしょう。
見学終了後、メラクレさんとコッペンさんを囲んで質疑応答タイム。
以下の質疑は私のメモを元に起こしたので、細かいニュアンスが違う部分もあるかもしれません。ご容赦ください。
最後にみんなで記念撮影をして、お開きとなりました。メラクレさん、コッペンさん、そして天文科学館のみなさんありがとうございました。ドームに映しだされる満天の星空と再開する日を楽しみにしています。