塩屋天体観測所|プラネタリウム・天文台訪問記
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ペンシルロケット50周年記念レプリカ |
下から「ペンシル」「ペンシル360」「二段式ペンシル」 |
戦後日本の宇宙開発は、ペンシルロケットから始まりました。1955年のこと。
子どもの頃に上野の国立科学博物館でペンシルロケットを見た記憶があるのですが、あまりの小ささに「本当に鉛筆みたいだ」と驚いたのを覚えています。
こんな小さなロケットですから、燃焼時間は約0.1秒。それで時速270km/hまで加速するのだから凄まじいものです。小さいことを逆手にとって、回数を重ねて数多くのデータを収集した結果が、後のベビーやカッパといった観測ロケット、ラムダ、ミューの打ち上げロケットにつながります。
観測ロケット群とM-4C、M-3Cの模型 |
こちらはM-3SIIとM-V |
ペンシルロケットの隣の棚に並んでいるロケットの模型たち。赤と銀色のウルトラマンカラーは、ロケットの挙動を観察しやすくするためのものです。
少し離れた場所には、M-3SIIの内部透過モデルと、M-Vの初期型と後期型の2通りの模型もありました。M-3SIIのフェアリングに積んであるのが「すいせい」なのが懐かしい(ロケットの番号は2号機)。
再利用試験機 |
内之浦宇宙空間観測所模型(一部拡大) |
地道に開発が続けられている再利用ロケットです。プレートに「実験機」とあったのですが、実際につかわれていたものなのでしょうか。
右写真は展示室内の内之浦宇宙空間観測所の模型。ISASの科学衛星はここから打ち上げられています。
ロケットだけでなく、科学衛星もてんこ盛りの展示室です。
ロケットの隣の衛星模型たち |
上段左から「たんせい(MS-T1)」「しんせい(MS-F2)」「でんぱ(REXS)」。下段左から「たんせい2号(MS-T2)」「はくちょう(CORSA-b)」です。「はくちょう」はたぶん原寸大で、その他はおそらく1/3くらいの模型です。いずれも1970年代に打ち上げられたものですが、当時の衛星はとても小さかったのです。
「たんせい」は試験衛星で、名前の由来は「淡青」。東京大学のスクールカラーだそうです。
「しんせい」「でんぱ」「はくちょう」は科学衛星。「でんぱ」は打ち上げ後に衛星が故障し、「はくちょう」は最初の機体が軌道投入に失敗し、リターンマッチで打ち上げられた衛星です。宇宙開発は、失敗と経験の上にあるものです。この「はくちょう」が日本のX線天文学の土台を築き上げました。
この他「おおすみ」の模型があるのですが、ちょうど小山市博物館に貸出中でした。地方の子どもたちは上京してさらにISASまで足を伸ばす機会などなかなかないですから、こうした出張展示はよい試みだと思います。
看板はVSOP-2だけど後ろは「はるか」熱試験モデル |
展開するアンテナのモデル |
「はるか(MUSES-B)」は工学試験衛星で、なおかつ電波天文衛星です。M-Vロケット1号機で1997年に打ち上げられました。
VSOPという酔っぱらいそうなプロジェクト名が付けられていましたが、計画に携わった天文学者が酒好きだったという話です。公式には"VLBI Space Observatory Programme"の頭文字ってことになってますけど。
電波望遠鏡を宇宙に打ち上げて、巨大な口径の干渉計を実現することで、高い分解能の観測をするのが目的でした。期待通りの成果を上げ、2005年度末に運用終了。
「はるか」模型 |
ASTRO-G模型 |
「はるか」の後継機として開発中なのが天文衛星「ASTRO-G」です。アンテナもパワーアップして、より高精度の観測を目指します。こんどは「きく8号(ETS-VIII)」みたいなアンテナになるのですね。最も早い打ち上げで2012年の予定。ロケットはなに使うんだろう……
ちなみにプロジェクト名はVSOP-2。XOとかじゃなくてよかった……のかな。3代目はナポレオンとか。
このASTRO-Gのペーパークラフトが配布されていたので、しっかり頂いてまいりました。特別公開用につくったものなのでしょうか。
「ひてん/はごろも」 |
惑星探査ローバ |
「ひてん(MUSES-A)」は、1990年にM-3SIIロケット5号機によって打ち上げられました。。「ひてん」ではスイングバイやエアロブレーキの技術習得が行われ、のちの「のぞみ」や「はやぶさ」の運用の基礎になっています。上にのっている多面体は孫衛星の「はごろも」で、月周回軌道に投入されました。
惑星探査ローバは将来に向けての研究中。火星でのNASAのローバの活躍は記憶に新しいところですが、日本でも様々なタイプのものを開発中です。
「あけぼの」模型 |
「GEOTAIL」模型 |
「れいめい(INDEX)」1/1モデル |
「あけぼの(EXOS-D)」はオーロラの観測を行う衛星で1989年にM-3SII4号機で打ち上げられました。20年近くも現役にある、息の長い衛星です。
「GEOTAIL」はアメリカとの共同プロジェクト。1992年にアメリカのデルタロケットで打ち上げられ、地球の太陽と反対側に伸びる磁気の尾を観測しています。
「れいめい(INDEX)」は小型衛星のプロジェクトで、オーロラの観測を実施。2005年にウクライナからドニエプルロケットで打ち上げられました。展示されているのは試験で使われた実物大モデル。
「すざく」模型 |
「あかり」模型 |
「ひので」模型 |
「すざく(ASTRO-EII)」は2005年にM-Vロケット6号機で打ち上げられた、日本5代目のX線天文衛星です。「EII」なのは当初予定の「ASTRO-E」がM-Vロケット4号機の不具合で軌道投入に失敗し、そのリターンマッチのため。名称の由来の朱雀は想像上の赤い鳥ですが、初代X線衛星の「はくちょう」をどことなく思い起こさせるものがあります。
「あかり(ASTRO-F)」は2006年にM-Vロケット8号機で打ち上げ。高解像度の赤外線望遠鏡で全天サーベイを行うのが目的で、2007年8月に望遠鏡を冷却する液体ヘリウムを使い切り、当初想定していた主要観測を終了しました。今後は機械式冷却で使える装置での観測を続けていくことになります。
「ひので(SOLAR-B)」は2006年にM-Vロケット7号機で打ち上げ。順調に太陽の観測を続けています。
金星探査機「PLANET-C」 |
水星探査機「MMO」 |
2010年の打ち上げを目指して計画進行中なのが金星探査機PLANET-B。「金星気象衛星」と銘打つとおり、金星大気の観測を主目的にしています。「のぞみ(PLANET-A)」も火星大気の観測が主目的でしたが、ISASは大気が好きなのでしょうか。
金星は太陽に近いので、探査機本体は「はやぶさ」とほぼ同じ大きさながら、太陽電池パドルが小さいのが目に付きます。打ち上げロケットは廃止されたM-Vに代わってH-IIAを予定(かえって高く付かないか?)。
MMOは水星の磁気を観測する探査機で、ヨーロッパとの共同水星探査プロジェクト「ベピ・コロンボ」の一翼を担います。こちらの太陽電池はパドルなしで、本体に貼り付けられた小さな青い部分だけ。探査機の行き先によって、これほど太陽エネルギーの影響が違うのかと驚きます。
こちらは構想中のソーラー電力セイル外惑星探査機。ソーラーセイルを利用した惑星間航行というアイデアは昔からありましたが、それを軽量太陽電池にして、得られた電力でイオンエンジンも運転しちゃおうという、ハイブリッド推進方式です。木星軌道周回オービターと、木星に突入するプロープも搭載した意欲的な構想です。
ペットボトルのフタに押し込んだソーラーセイルの紙モデルがあったのですが、写真に撮るのを忘れました。曲線に折り込んだ面白い畳み方をしています。
MPDアークジェット(後方の箱状のもの) |
SFU模型 |
スペースシャトルに搭載して実験を行ったMPDアークジェットです。イオンエンジンなどの電気推進エンジンの一種。
右写真はSFU模型と衛星の熱保護膜展示。SFUの実物は上野の国立科学博物館で展示されています。
一見、ただのビニールの膜ですが、厚み3.4ミクロンという超薄膜。
台所で使う「サランラップ」の厚さが10ミクロンですから、それよりずっと薄くてずっと強いという、すごい素材です。手に取ってみると、まとわりつくような感覚です。
これを用いた気球は2002年に高度53kmを達成し、現在高度60kmを目指しているそうです。
気球というとなんだか古めかしいイメージですが、飛行機でもロケットでも行けない高度の観測を担う、静かなハイテク観測装置なのです。
「かぐや」特設コーナー |
「かぐや」模型、手前に精密ペーパークラフト |
間もなく2007年9月に打ち上げられる「かぐや(SELENE)」の特設コーナーもありました。ここで質問して教えていただいたこと。
「かぐや」の打ち上げ期間が月半ばに設定されているわけ……クリティカルな運用をするときに臼田のアンテナの可視範囲に入っているようにするためだそうです。
「かぐや」の観測期間は1年、その後は……やがて月面に墜落するそうです。大気がなければずっと回っていそうなものですが、月の所々にある重力異常地域や、地球の摂動の影響で、徐々に軌道が変わってしまうのだとか。2つの子衛星は軌道が高いので、しばらくは月周回軌道にとどまるそうです。
展示室の一角にあるISAS文庫。
貸し出しは行っていないものの、館内での閲覧は自由。本棚の空きがたくさんあるところを見ると、これからどんどん充実していくのでしょう。
(2007.8.22訪問/2007.9.2記)