塩屋天体観測所|プラネタリウム・天文台訪問記
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2006年9月30日、京都市山科区の京都大学花山天文台の一般公開がありました。そんな面白そうなものを見逃す手はありません。
事前公募に申し込み、無事に参加受付の案内が届きました。花山天文台は京都市営地下鉄東西線の蹴上駅が最寄駅。そこから徒歩30分……ということで、駅から天文台まで送迎のジャンボタクシー(有料)が走っていました。
天文台へつながる道には「トレミーカーブ」「コペルニクス転回」「ニュートンドロップ」といった洒落っけのあるポイント名が付けられています。
車に揺られること約10分で天文台に到着。車を降りてから、しばらく砂利道を歩くと、天文台の門があります。木々に埋もれそうな、とっても控えめな構えです。ここから先は、ふだんは関係者以外立入禁止の区域です。
向かって左の門柱 |
こちらは右の門柱 |
しばらく歩くと、木々の向こうに天文台のドームが見えてきます。感動の一瞬です。って、おたのしみはこれからです。
新館の玄関 |
新館は研究室やコンピューター室、仮眠室などのある建物で、望遠鏡こそありませんが、天文台運営の中心となる施設です。
名前は「新館」でも、建設は1978年ですから、2008年で築30年を迎えるという、それなりに年季の入った建物です。
玄関のドアの取っ手のデザインが、思いっきり昭和テイストを醸し出しています。
色の剥げた郵便受けが現役なあたりが、庶民的で人の香りを感じさせてくれます。
太陽の磁力線のシミュレーション画像を公開中 |
飛騨天文台とリアルタイムで結んで ライブ解説を実演 |
部屋の内いくつかは公開されていて、シミュレーションの動画を見せてくれたり、工作教室が開かれたりしています。変わったところでは、同日に一般公開が行われている飛騨天文台と回線を結んで、飛騨の太陽望遠鏡の画像を花山にライブ中継するなんて企画がありました。
SOLAR-B『ひので』の |
『2001年宇宙の旅』ではありませんか |
2006年9月22日(この一般公開の8日前)に打ち上げられたばかりの、太陽観測衛星SOLAR-B「ひので」のペーパークラフトが壁に展示してありました。
別の部屋の入り口には、『2001年宇宙の旅』のポスターも。
休憩室として開放されていた和室 |
ハイテク蚊撃退装置 天文学者も生物学的悩みは尽きません |
直径9mのドームを載せた、花山天文台本館です。いかにも天文台らしい貫禄のある建物です。ドームの中には45cm屈折望遠鏡が納められていて、学生の実習や一般公開の観望会に使われているそうです。
屈折望遠鏡にしては寸胴で短鏡筒 |
接眼部は筒の中ほどにあります。 |
この望遠鏡、最初見たときに、屈折望遠鏡だと気付きませんでした。寸胴で鏡筒が短く、接眼部が鏡筒の中ほどにあります。一目見たら、反射望遠鏡の姿です。
1927年に購入され、1929年に花山天文台が開設されたときに引っ越してきたものです。当時の口径は30cm。9mドームにもピッタリのサイズでした。
時は移って1969年。さすがに口径30cmでは観測に力不足となったのか、対物レンズをカールツァイス製の45cmレンズに換装することになりました。といっても、フローライトやEDレンズの時代ではありません。アクロマートレンズで十分な色消しをするには口径比F15もの長焦点が必要です。が、そんなものを30cm屈折用に設計した架台に載せたら、バランスが狂います。
で、どうしたかというと、反射鏡を2枚鏡筒の中に仕込んで、光路を4の字型に折り曲げたのです。
だったら最初から反射望遠鏡をつくった方が安上がりではないかと思うのですが、ともかく、独特の形の45cm屈折望遠鏡が完成しました。
赤道儀は重力時計駆動 |
青に塗ったのは最近とのこと |
赤道儀は重力時計駆動。錘を利用した、電気もバネも要らない仕掛けです。
赤道儀のメーカーの名前は"T.COOKE & SONS"、はるばるイギリスから海を越えてやってきたのです。この名前、どこかで見たことがあると思ったら、神戸市青少年科学館の25cm屈折望遠鏡「たいよう」(1923年製)と同じでした。45cmに換装される前に使われていた30cm屈折もクック社製のもの。意外なところに兄弟がいたものです。
なお、この45cm屈折を使っての観望会は、花山天文台とNPO花山星空ネットワークの主催で、年数回行われています。ツァイスのレンズ、一度覗いてみたいものです。実は一般公開の際にも観望会があったのですが、枠が少なかったのと、帰りが遅くなりすぎるので、断念したんです。
一般向けの講演会を開催中 |
伝統的蚊撃退装置 天文学者も生物学的悩みは尽きません |
本館図書室では、一般向けの講演会を開催していました。なかなかの盛況ぶり。
本館の廊下には、伝統的な蚊撃退装置が活躍中。でもなにゆえ、足代わりにビール缶!?
本館ドームのテラスからは、山科の市街地を一望に見おろすことが出来ます。ということは、「山科からは花山天文台のドームが見えるのかな」と思ったら、やっぱり見えるのだそうです。
定番の太陽観測会 |
一般公開なので、屋外でも様々な催しが行われています。
まずは定番の太陽観望会。
出してある望遠鏡が、往年の名機ニコンの10cm屈折と、これまた年季の入った高橋製作所65mm屈折V-1赤道儀。渋すぎる品揃え。
解説していた学生に、「もしかして関係者の方ですか」と訊ねられたのですが、う〜ん、なんででしょう。
興味津々の参加者たち |
玉子もほら、この通り |
花山天文台の現在の役割の一つが太陽観測。それにあやかって、太陽光線の威力を見せつけるため、ソーラークッカーの実演が行われていました。
見る間に玉子が焼き上がっていくので、なかなか面白いです。食べたかったのですけど、一緒に見ていた子どもがむっちゃ食べる気満々の雰囲気だったので、遠慮してしまいました。お情けで、小指の先ほどの白身の欠片を頂いたので、よしとしましょう。
二等三角点「花山」 |
菱形基準測点「花山」 |
花山天文台の構内には、二等三角点「花山」があります。案内板によると、北緯34度59分25秒、東経135度47分46秒、標高221.57m。設置は1901年とのことですから、天文台より前に、ここにあったことになります。
もう一つ、構内にある測量標石として「菱形基準測点」があります。これは地表の歪みを知るために設置されたもので、4つ一組で、全国に16ヶ所設置されているそうです。京都基線では花山・大文字山・追分・浄水場の4つです。
一般公開で特別に説明があったわけではないのですが、構内でなかなか見る機会がないですから、ついでにご紹介でした。
(2006.9.30訪問/2007.6.6記 福田和昭)