塩屋天体観測所|プラネタリウム・天文台訪問記
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東京都小金井市に「情報通信研究機構(NICT)」があります。かつての「通信総合研究所」と「通信・放送機構」が合併した組織で、元をたどると郵政省電波研究所に行き着きます。情報通信事業の支援が業務内容。2008年7月25・26日に一般公開があり、26日に訪問しました。
コンピュータから通信まで幅広いお仕事をしているのですが、今回は私たちのくらしと関わりが深く、そして明石と切っても切れない日本標準時に関わる部分を中心に覗いてみました。
NICTの仕事の一つに、「日本標準時の決定・維持」があります。
そうなんです。日本標準時を決めている場所は、明石でなく、東京都の小金井市だったのです。
私たちがふだん使っている時間は、もともと、地球の1日を基準に決められました。
太陽が南中してから次に南中するまでが1日。それを24等分すると1時間。それを60等分すると1分。それを60等分したのが1秒。1日=24時間=1440分=86400秒、というわけです。
が。
時計の精度が向上するにつれ、どうも1日の長さは一定していないことが分かってしまったのです。人間のふだんの暮らしで困るほどではないのですが、精密な測定のときに去年と今年で1秒の長さが変わってしまうのは問題です。
そこで1967年に、1秒の長さを「セシウム133の原子の基底状態の2つの超微細準位の間の遷移に対応する放射の周期の91億9263万1770倍に等しい時間」と定めました。
天文台での観測から決めていた1秒が、実験室の測定で決められるようになったのです。
日本でこの仕事を担っているのがNICTというわけです。
展示室になっている日本標準時の生みの部屋 |
これが日本標準時を生み出す測定器群だ! |
日本標準時はNICTの2号館でつくられています。その部屋は3階の一角にあります。全面ガラス張りの向こう側、大きなラックに収まって並んだ測定器群が、日本標準時を生み出しています。
原器室モニタ |
展示用の原子時計、この同型機が18台あります |
もっとも、この測定器群自体は時計ではありません。この裏手に18台の原子時計が4部屋の原器室に分けて設置されています。それぞれ空調完備の電磁シールド完備の部屋で、ふだんは職員も入ることのない特別室です。
なにやら計算中 |
できたての日本標準時 |
その18台の原子時計が示す時刻を、測定器群で合成して日本標準時がつくられます。測定器群の右端のラックで、できたての日本標準時が高らかに表示されています。
できたての日本標準時は、身の回りの色々なところに潜んでいます。
テレホンJJYは日常生活で直接お世話になる機会は少ないのですが、例えばこんなところで活用されています。
とっても見慣れた天文科学館の大時計。実はNICTと電話回線で結んで、テレホンJJYを利用して調整しています。精度は1/100秒。大時計は秒針がないので、充分すぎるほどの精度が保たれています。
NICTのテレホンJJY送出装置 |
天文科学館大時計の親時計(天文科学館3階) |
左の写真がNICTのテレホンJJY送出装置、右が天文科学館の親時計です。
このNICTのテレホンJJYの装置を乗っ取れば、明石の大時計も自在に操作できるわけです。ブラック星博士が喜びそうです。よい子のみなさんは真似しないように。
NICTで以前使っていた原子時計(NICT展示室) |
天文科学館に展示してある原子時計も NICTで使っていたものです(天文科学館3階) |
解説に当たっていたスタッフの方とお話をしていたら「明石には原子時計が何台あるんですか?」と聞かれてしまいました。大時計はテレホンJJYで調整しているのですが、その向かい側に展示品として原子時計が一台置いてあります。実はこれも、NICTで使っていたものだったりします。
標準電波の送信アンテナ模型 |
来場者向けのサービスで 腕時計の歩度測定もやっていました |
標準電波を送信するアンテナの模型も展示されていました。福島県にある40kHzのアンテナは高さが250m、佐賀・福岡の県境にある60kHzのアンテナは高さが200mあります。一度見てみたいものです。
右の写真は時計の歩度を測る装置。標準電波を受信して、それを基準に時計の進み/遅れ具合を高精度に測定するものです(こちらは標準時ではなく周波数を使っているのでしょう)。私の腕時計を看てもらったら、一日あたり0.24秒進んでしまうことが分かりました。もっとも私の腕時計は電波時計で、一日数回自動校正をしていますから、ふだん使いでは1秒以上ずれることはまずないということになります。
原子泉型Cs一次周波数標準器 |
光周波数標準器(開発中) |
原子時計は市販されている時計の中では最も精度がよいものです。1台数百万円で売っているそうです。「一家に一台」とは行きませんが、高精度の測定が必要な工場などで導入したりするそうです。NICTで使っているもので10-13秒の(30万年に1秒)程度の精度があります。
これで飽き足らないのが人間の飽くなき追求心で、NICTではさらに2ケタ精度の良い「原子泉型Cs一次周波数標準器」を開発しました。精度は10-15秒の(3000万年に1秒)程度。さらに10-16秒の(3億年に1秒)の精度を目指す「光周波数標準器」も開発中とのこと。
仕組みを説明するパネルもあったのですが……正直、ついていけませんでした(汗)。
なんだか想像を絶する世界です。
(2008.7.26訪問/2008.9.8記)