最近の宇宙探査機には、多くの人の関心を集めるために、探査機の一部に名前を刻んだり、名前のデータを記録したディスクを搭載することがあります。日本でも1998年に打ち上げられた火星探査機「のぞみ」や2003年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」などで実施されています。
「あかつき」はJAXAの金星探査機。大気の様子を調べる「金星の気象衛星」としての活躍が期待されています。
2010年5月21日に打ち上げられ、同年12月7日に金星周回軌道投入が試みられましたが、軌道制御エンジンのトラブルにより、失敗。現在、2016〜2017年に訪れる次の金星接近に合わせて、再度の軌道投入を試みるべく、運用が続いています。
ということは、この乗車券、金星到着前に有効期限が切れそうな気がするのですが……今さら途中下車もできないのでそのまま連れていって頂きましょう。がんばれ「あかつき」!
(2011.6.12記)
「IKAROS」はJAXAの小型ソーラー電力セイル実証機。
太陽の光を受けて進む宇宙の帆船「ソーラーセイル」は、燃料をほとんど使わずに宇宙を航行できる技術です。アイディアは古くからあったものの、太陽の光の圧力は非常に弱いため、帆を薄く軽くつくる技術が必要で、21世紀になってようやく実証機が宇宙に飛び立ちました。
「IKAROS」は金星探査機「あかつき」の相乗り衛星として打ち上げられ、世界で初めてソーラーセイルの展開に成功し、ソーラーセイルを用いた加減速や薄膜太陽電池の発電など、当初予定していたミッションをことごとく成功させました。現在も金星軌道近傍の太陽周回軌道を航行中です。
打上げ前のミッション応援キャンペーンでは、JSPEC(月・惑星探査プログラムグループ)サイトから63,248人、米国惑星協会より約89,000人分の名前が集まりました(アメリカの方が多い!)。名前は帆の先端にあるマスウエイト内のプレートに刻まれ、メッセージはDVDに書き込まれてIKAROS本体底部に取り付けられています。
※JSPECサイトからの応募では記念カードがなかったので、上に掲載したものは、後日、米国惑星協会のサイトでつくりました。
将来はソーラーセイルとイオンエンジンを組み合わせたトロヤ群小惑星の探査機が構想されています。
(2011.6.12記)
「ライトセイル1号」は米国惑星協会が企画しているソーラーセイル衛星です。
もともと2010年末の打上げが予定されていましたが、計画変更で2011年半ばに延期され、相乗りロケットを選定中です。地球周回軌道上で32m2のセイルを展開する予定。こういう計画を民間主導で計画しているのが、アメリカの宇宙開発の底力です。
「ライトセイル1号」はIKAROSと共に応援キャンペーンが行われたので、私の名前も積まれている……と思って確認したらあれ、ない!? 漢字で入力したのでうまく検索できないだけかもしれませんが、アメリカ市民のIKAROSへの応援の感謝とライトセイル1号の成功を祈るメッセージを添えて、改めて登録し直しました。メッセージはDVDに記録されてライトセイル1号に搭載されるそうです。
なおアメリカのソーラーセイル衛星としては、2010年10月に打ち上げられた「ナノセイルD2(NASA)」が、2011年1月に地球周回軌道でソーラーセイルの展開を成功させています。「ナノ」の名前の通り、ソーラーセイルの面積は10m2で、IKAROSの196m2に比べると小さなものですが、アメリカも着々と技術を蓄積しているといえるでしょう。
LightSail-1|Sail Away! Send a Message Sailing on LightSail-1
(2011.6.12記)
「かぐや」はJAXAの月周回衛星。
2007年9月14日に打ち上げられ、地球を回る楕円軌道を2周した後、10月4日に月軌道に投入。10月9日にリレー衛星「おきな」を分離、10月12日にVRAD衛星「おうな」を分離、それぞれ月周回軌道に入りました。
15種類もの観測機器を搭載した「かぐや」は、1年半に渡って膨大な科学データを地球に送り届けました。一般向けにはハイビジョンカメラで撮影した「地球の出」の風景が大きな反響を呼びました。
「かぐや」ではミッションへの関心を高めるため、「月に願いを!」キャンペーンが行われました。国内234,498名、海外178,129名、合わせて412,627名分の名前とメッセージが集まり、ネームシートに加工されて衛星に搭載しています。文字サイズは70マイクロメートル。顕微鏡がないと読めません。
福田 和昭 様
登録完了メール
セレーネ「月に願いを!」キャンペーン事務局です。
今回登録頂いた福田和昭様を含め5名様のお名前と認証番号は下記の通りです。
福田和昭
***************
(以下、家族分省略)
ご応募有難うございました。
セレーネ「月に願いを!」キャンペーンホームページ
http://www.planetary.or.jp/selene/pc/index.html
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
NPO法人日本惑星協会(TPS/J)
空気抵抗のない月のこと、半永久的に月軌道を回るのかと思ったら、月面には重力異常地帯があるので、次第に軌道が変化し、燃料が尽きたあとは徐々に高度を下げて月面に落下することになります。
2008年10月31日に、当初予定していた1年間の定常運用を終了。残りの期間は計画的に高度を下げながら、追加データの収集にあたります。そして2009年6月11日3:25(JST)、月周回軌道で1年半を過ごした「かぐや」は、月面の東経80.4度、南緯65.5度地点へ制御落下されました。
搭載したネームプレートも月面に到達しましたが、おそらくバラバラになってしまったのではないでしょうか。運が良ければいつの日か回収されることがあるかもしれません。
(2007.10.25追記/2010.6.16追記)
アメリカがブッシュ大統領のもと、再び月を目指すと宣言した際に、その調査の目的で計画されたのが「ルナー・リコネサンス・オービター」です。
打上げは2009年6月18日。JAXAの「かぐや」の跡を継ぐように月周回軌道へ投入されました。ルナー・リコネサンス・オービターは、「かぐや」をも上回る、最高50cmという驚異的な分解能のカメラを搭載しています。
ブッシュ大統領の新宇宙政策は、次のオバマ大統領の元で修正されましたが、そこはアメリカのこと。遠い将来のために、着実に基礎情報の観測に当たっています。
NASA|Mars Exploration Lover Misson|Sign Up for Mars!
月探査情報ステーション|ルナー・リコネサンス・オービター/エルクロス
(2011.6.14記)
宇宙望遠鏡「ケプラー」は2009年3月9日に打ち上げられました。
太陽系外惑星を発見するために、はくちょう座からこと座にまたがるエリアの10万個の星を観測し続けるのがミッションです。惑星が恒星の前を横切るとき(金星や水星の太陽面通過みたいなもの)、わずかながら、恒星が暗くなります。これを利用して太陽系外惑星を検出します。太陽系から見て、恒星の正面を惑星の軌道が横切るケースしか観測にかからないのですが、一定エリアの恒星の惑星数を測定することで、全恒星に対する惑星の存在の割合を推定できることになります。
2011年現在、8つの恒星系で合計16個の惑星を発見。なおも1,000以上の候補天体が検出されています。
地球の影響(観測対象天体が地球の影に入る・地球の迷光)を避けるために、地球周回軌道ではなく、地球の後を追いかけながら太陽を周回する軌道に投入されています。
NASA|Kepler
(2011.6.15記)
JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」は、2003年5月9日に打ち上げられ、小惑星イトカワ(1998SF36)の探査を行い、2010年6月13日に地球に戻ってきました。月以外の天体に着陸して地球へ戻ってきた宇宙機は世界で初めての快挙です。
波瀾万丈としかいいようのないミッションの行方は多くの人が固唾をのんで見守りました。
小惑星イトカワでは、試料の採集に挑戦。探査機が小惑星表面に接近する際、、ターゲットマーカーという、ボール状の物体を投下しました。「はやぶさ」はこれを目印に小惑星イトカワに近づいたのですが、このターゲットマーカーに公募された88万人分の名前が刻まれています。
「はやぶさ」本体はイトカワを離れますが、ターゲットマーカーは小惑星イトカワ表面に残っています。
打ち上げ前に「星の王子さまに会いに行きませんか」というキャンペーンが行われたのですが、上手いネーミングだなぁと感心したものです。
以下、日本惑星協会メールマガジンのJAXA的川教授のコラムより。
「既報のとおり、さる2005年11月21日にイトカワ表面に着地したターゲット・マーカーには、打上げ前に日本惑星協会が実施した「星の王子さまに会いに行きませんか ミリオンキャンペーン」に応募した88万人の人々の名前が、アルミ箔に刻まれています。半導体の微細な構造を作っていく特殊な技術を駆使して、0.03 mm角の大きさのアルファベットで綴られています。今後永遠に「イトカワ」先生と一緒に過ごしていただくことになります。それを聞いて「しまった!」と思う人がいなければいいのですが……。」
写真は特定非営利活動法人日本惑星協会が頒布した記念プレート。右側にひょうたん状の図柄が描かれていますが、この形をしたシートを2枚組み合わせて野球のボールのようにターゲットマーカーのボールを包みます。名前を刻んであるのはこの内側。細かい字をそのまま刻み込んでいますので、顕微鏡があれば意味は分からずとも何かが書かれていることは理解できるはずです。
JAXA|宇宙科学研究本部(ISAS)|はやぶさ
小惑星探査フォーラム一般公開ページ|小惑星探査機はやぶさ勝手に応援ページ
はやぶさまとめ
(2006.3.15追記/2010.6.18追記)
「ディープ・インパクト」は、2005年1月に打ち上げられ、2005年7月4日に予定通り、テンペル第1周期彗星に激突しました。探査終了予定は2005年8月で、この種の計画としては短期間のものです。
同名の映画から名前を取った計画ですが、探査機の一部を切り離して彗星に衝突させ、クレーターを作って彗星の中身を調査するという勇猛果敢なミッションです。衝突日時は2005年7月4日14:50頃(JST)。ハレー彗星に肉薄したESAの探査機「ジォット」が「カミカゼミッション」と呼ばれていましたが、その通称はむしろ今回の方がふさわしいです。
公募した名前は56万人。CDに収められて、"Impactor Spacecraft"(衝突機)に搭載されていました。彗星にはたしかに届けてもらえましたが、時速36,000kmでぶつかりまして、木っ端みじんに砕けちったことでしょう。壮絶な形で彗星の内部を見せて頂けました。
Deep Impact(メリーランド大学)|Send Your Name Archives
「マーズ・エクスプロレーション・ローバ」は1号機と2号機があり、2003年6月(1号機)・7月(2号機)に打ち上げられ、両機とも2004年1月に無事、火星に着陸しました。火星表面を動き回る無人探査車(ローバ)で、1号機は「スピリット」、2号機は「オポチュニティー」と名付けられています。
このローバーの「台座」の一角に、公募された3,551,645人分の名前データを収録したDVDが収められています。私の名前も記録されていますが、それが実際に火星表面に置かれているのが不思議な気がします。
火星は将来、有人探査が行われる可能性のある惑星ですので、やがて人類が回収してデータを読む日が来るのかもしれません(その前に火星人が現れて持ちさっていたりとか)。
NASA|Mars Exploration Lover Misson|Sign Up for Mars!
月探査情報ステーション|マーズ・エクスプロレーション・ローバ
2003年12月に刀折れ矢尽きて火星周回軌道への投入を断念した「のぞみ」ですが、こちらはキャンペーンをしていたことを知りませんでした。残念。
(2005.3.14記)
「マーズ・サイエンス・ラボラトリ」はNASAが2011年末に打上げを予定している火星探査機です。
「マーズ・オデッセイ(ソジャーナ)」、「マーズ・エクスプロレーション・ローバ(スピリッツ・オポチュニティ)」に続く、3代目の無人探査車(ローバ)です。スピリッツ、オポチュニティの質量が185kgだったのに対し、「マーズ・サイエンス・ラボラトリ」は800kg。4倍以上に大型化し、走行性能も向上。なにより多くの観測器具を備え、「ラボラトリ」の名前の通り火星の実験室となります。
登録した名前はマイクロチップに記録されて、ローバに搭載されるそうです。
NASA|Mars Science Laboratory|Send Your Name to Mars
月探査情報ステーション|マーズ・サイエンス・ラボラトリ
(2011.6.15記)
「ニューホライゾンズ」はNASAの冥王星・カイパーベルト天体探査計画です。2006年1月19日(日本時間20日)打ち上げ成功。大きさは「ピアノほど(月探査情報ステーションより)」の小さな探査機ですが、アトラスVという強力なロケットを使って、猛烈な加速を行います。ボイジャー1号が1年半かかった木星までの道のりを、わずか1年1ヶ月で到達。スイングバイでさらに加速しますが、それでも冥王星に到達するのは2015年。なんとも気の長い探査機です。
「ニューホライゾンズ」の現在位置はこちら。冥王星到達後は延長ミッションとして、2016年から2020年にかけてカイパーベルト天体の観測を行う計画があります。
ついに冥王星まで名前を運んでもらえるとは、いい時代になったものです。
New Horizons|Send your name to Pluto
(2006.3.15追記)