日面通過は地球の内側をまわっている水星・金星が太陽の前を横切る現象です。金星の場合、121.5年・8年・105.5年・8年という間隔でしか起こらないため、谷間に生まれてしまった人は運が悪ければ一生見ることが出来ない珍しい現象です。
1874(明治7)年12月9日、その金星日面通過が起こりました。日本は全ての過程を日中に見ることが出来る観測適地となりました。そのため欧米各国から観測隊が派遣され、長崎にアメリカ隊とフランス隊、横浜にメキシコ隊が来訪、そして神戸にはフランス観測隊がやってきました。フランス隊はパリ天文台からJ.ジャンセンが来訪。ドラクルクと日本人・清水誠を従え、神戸・諏訪山に拠点を設けて観測を実施し、見事に成果を上げました。
これを記念して、諏訪山の観測地は「金星台」と名付けられました。神戸市中央区諏訪山町にある諏訪山公園の一角の広場で、現在は「金星過日測檢之處」と題された円柱状の石碑が建てられています(写真)。表面にフランス語、裏面に日本語で観測日と観測者などが刻み込まれています。
それでは、この金星日面通過はどのような現象だったのでしょうか。フランス隊が観測を行った金星台からの様子を下の画面でシュミレーションしてみましょう。左画面が太陽の拡大図、右画面が広角で見た空の様子です。
日面通過が始まるのが10時45分、その後13時04分に金星がもっとも太陽の奥に入り込み、15時25分に食が終わります。なんと4時間40分にもわたる現象で、食の開始時に南中前だった太陽は、食が終わる頃には西空低く沈みかけています。
また金星の大きさにも注目してください。この時の金星は視直径が60.1'にもなり、木星の平均視直径の約1.5倍の巨大さで見えています。地球からの距離はわずか0.264AU(天文単位)。これは2003年の史上まれに見る火星大接近の0.373AUをも上回る距離です。金星の内合は観測が難しいので注目されることが少ないのですが、こういう形で目にすると、その迫力に驚かされます。
次回の金星日面通過が日本で見られるのは2004年6月8日。さらに8年後の2012年6月12日にも再び金星日面通過を見ることが出来るのですが、その次となるとはるか先の2117年まで待たなければなりません。私たちは幸運な時代に生まれ合わせたものです。
(2002年1月27日掲載・2002年4月30日追記)
下図は当日の太陽と金星の位置を1時間ごとに表したものです。画像作成には「ステラナビゲーターVer.5」(AstroArts)を使用しました。 |
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