塩屋天体観測所|プラネタリウム・天文台訪問記
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「せっかくここまで来たんだから、パークスのパラボラアンテナをバックに、星の写真を撮りたいよね」
という話が持ち上がったのは、セデューナでの日食観測が終わって、アデレードへ向かうバス旅の休憩のレストランでした。こんな提案を、本気でどうにかしてやろうとしてしまうのが、この一行のすごいところです。
パークスの街に着いて、まずタクシーを調べたら、「街にあるタクシーは全部で7台だ」とのこと。
これでは全員乗り切れません。第一、そんな夜中に走ってくれるタクシーなどあるわけがありません。
結局、急遽、街の観光バスを一台チャーターしてきました。シドニーからここまで乗ってきたバスでは、運転手さんの労働時間、一日あたりの基準をオーバーしてしまうのです。こういうところ、オーストラリアはしっかりしてます。
肝心の天文台ですが、どういう交渉をしたのか、森本おじさんが調整して、夜間の立ち入りをOKしてくれることになりました。
すべてはパークス天文台見学予定日の前日の話。
出発は夜21:00、帰りは日付が代わって2:00。とんでもないオプショナルツアーの始まりです。
真っ暗な夜道をひた走るバス。
ほんとに真っ暗なので、どこに向かっているのかも分かりません。バスの中では森本おじさんが、運転手さん相手にジョークを飛ばしています。
しばらく走って、どこをどうたどり着いたのか、とにかく降りたら天文台の敷地でした。
「うわっ!!」
ほのかな明かりに照らされたパラボラが、天を仰いで遙か宇宙からの電波に耳を傾けています。
グオングオングオォォォン!!
望遠鏡を制御するモーターの重低音が、ときどきあたりの静寂を打ち破ります。
ちょっと浮世離れした光景の中、思い思いの場所に散って、星見や写真撮影を開始したのでした。
ビジターセンターでは、ちょうどパークスの「星の友の会」のような集まりをしている最中でした。
我らが森本おじさん、いつの間にやら演壇に登って講師役をしています。集まった人たちがゲタゲタ笑っているところを見ると、さぞかし盛り上がっているようです。なんでも日食の話をしてくれということだったそうなのですが、なんだかすごい人です。
64m鏡を構図に入れた写真を撮っているときに、
「おじさん、ここで撮らしてもらっていいかな」と、朗らかな声。
三脚を立てているときの明かりがちょうどいい感じだったので、星空をバックに、電波天文学者と電波望遠鏡の写真を撮らせていただきました。
もともと天体写真はあまり撮らない方なので、カメラは適当に切り上げて、あとはのんびり星空観望を決め込みました。ビジターセンターの前で機材を片づけていると、天文台の人がやってきて、何やら話しかけてきます。よくよく聞くと、
「俺、タカハシの望遠鏡もってるんだよ」
だって。日本でも高価な望遠鏡なのに、よくもまぁ、オーストラリアまで輸出しているものです。私の英語は片言以下なのですが、適当に望遠鏡のメーカーの名前を並べ立てていたら、何となく会話になって、アッハッハッと仲良くなって、引き上げていきました。そいや、ビジターセンターのコーヒー飲んでっていいよ、と親切に言ってくれた人でした。
バスの運転手さんが暇そうだったので、「一緒に星みないか」と声かけて、いろんな星雲・星団や土星なんぞを眺めて楽しみました。適当に天の川を流していけば、名前が分からなくてもたくさん星団が入ってきますし、土星は万国共通のスターです。
空気が乾燥しているせいか、地平線まで星がビッシリ見えるのに驚きました。南半球の常連、津村さんに言わせると「天文台の明かりがあるから、これくらいの空は序の口」らしいのですが、日本の空に慣れた身からすると、とんでもなくきれいな星空でした。
宿に帰ると、逆さになったオリオンがすっかり西に傾いています。
ここでは北半球で見慣れた星座を探さないと、なかなか星がたどれません。見慣れた星座もひっくり返っているので、オリオンのようによほど形の分かる星座でないと、道案内の役には立ちません。だいたい頭の真上にカノープスがあるなんて、そう簡単に慣れるものではありません。オーストラリアの人たちはさぞかし長生きしていることでしょう。
それでも、南十字とケンタウルス座のアルファ・ベータ、その間のコールサックだけはすぐ分かります。
こんな星空、すぐに寝るのがもったいなくて、宿の中庭で、しばらくボーっと眺め続けていました。
気がつけば、東の空が少しずつ、明るくなり始めていました。
夜が明ければ、パークス天文台、再訪です。
すこしでも寝ておかないと……と思いながら、後ろ髪を引かれる思いで、寝床に潜り込みました。
(2002年12月6日・7日/2003年9月22日記)