塩屋天体観測所プラネタリウム・天文台訪問記
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地球深部探査船「ちきゅう」(1)

(06.6.10・09.2.15神戸、06.6.17大阪/09.2.24記)

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地球深部探査船「ちきゅう」
総トン数:57,087t
全長:210m、幅:38m、船底からの高さ:130m
速力:約10ノット
掘削方式:ライザー掘削方式・ライザーレス掘削方式
乗組員:150名、就航:2005年

地球深部探査船「ちきゅう」

 地球深部探査船「ちきゅう」は、海洋研究開発機構が建造した船です。

 その目的は地球に穴を空けること。目指すは海底11,000m。水深4,000mの海底から、さらに7,000mを掘削します。

 人類が掘った一番深い穴は、ロシア北部のコラ半島の学術調査ボーリングで、深さは12,262m。「ちきゅう」が掘るのは水深4,000m+海底下7,000mなので、若干及びません。けれども海底地殻は大陸より薄いので、7,000m掘ると地殻の下のマントルに到達できると想定されています。地球の謎を解く使命を背負って、今日も「ちきゅう」は穴掘りに勤しむのです。

 横から見た姿に船の設備を描き込むと、こうなります。

 デリック(デリック)の高さが船底から130m、満載喫水が9.2mの船なので、海面上の高さは約120mほど。アポロ宇宙船を月に送り込んだサターンVロケットが全高110mですから、ほぼ似たような高さです。ちなみに神戸港のポートタワーが108m。


 上から「ちきゅう」を見ると、こんな様子。

 デリックが目立つのはもちろんですが、船首のヘリデッキも異様です。船央には巨大なデリック、船尾にはファンネル(煙突)がありますから、船首にしか配置場所がなかったのでしょう。

 デリックの真下に開口部があり、そこから掘削用のパイプを降ろします。掘削フロアはドリルパイプを回したり、交換したりする場所。

 模型はタカラマイクロホビー「日本沈没・D2計画編」の「ちきゅう」です。1/2400の小スケールですが、よくできています。



 下から見上げるとこうなります。

 真ん中に穴が空いていても浸水はしませんのでご安心を(浮き輪だって真ん中に大穴が空いてるじゃないですか)。

 「ムーンプール」というのは、その昔、この開口部に月が映ったことから付いた名称だそうです。ほんまかいな。

 そこから下に伸びているのがライザーパイプ。1本27mのパイプを継ぎ足して、水深2,500m(将来計画4,000m)の海底まで伸ばします。ライザーパイプは内径50cmで、中をドリルパイプが通ります。

 ライザーパイプの先端にあるのが噴出防止装置。海底に設置され、掘削中に石油やガスが吹き出した場合、ここで食い止めます。

 船首と船尾に3ずつ、合計6個のアジマススラスタは、360度の方向転換が可能な巨大スクリューです。直径なんと4m。「ちきゅう」の推進力となるだけでなく、掘削中に船の位置を長期間同じ位置にとどめるための重要な役割を担っています。

# 2008年春のドッグ入りで、このスラスタのギア破損が判明し、交換のために2008年11月〜2009年2月まで神戸港に長期停泊していました。


とにかく大きな船

工場街の向こうにデリック(09.2.15神戸) 夕暮れの阪神高速から(08.11.30神戸・東灘区)
15km先からも目視(09.1.24神戸・旗振山) 天保山の観覧車とツーショット(06.6.17大阪)

 遠目にもよく目立ちます。六甲アイランドに停泊中は、神戸市内のあちこちからその姿を見ることが出来ました。船形が分かりやすいこともあり、15km離れた塩屋・旗振山からも肉眼で確認できました。

まずは乗船

乗船用タラップ(09.2.15神戸) 最初の一般公開時の乗船証(06.6.10神戸)

 長いタラップを登って、いよいよ乗船です。

船内を巡る

入口のひとつ(09.2.15神戸) 廊下はそれほど広くない(09.2.15神戸)

 そして船内に入ります。あ、入口の写真は最初に入ったのとは別のところです。雰囲気はこんな感じということで。

 船内の廊下は人がすれ違うのがやっとという幅。荷物を運ぶにはちょっと窮屈そうです。

ブリッジ/操舵室

 乗船したのがUPPER DK.(上甲板)。

 このあとUPPER DK.→Aデッキ→Bデッキ→Cデッキ→Dデッキ→NAV.BRI.DK.(Navigation Bridge Deck=航海甲板)と登ります。船の内外の階段を行ったり来たりしていたので気付きにくいのですが、6階分も登ってしまいました。

船首側からの「ちきゅう」(09.2.15神戸) ブリッジから前方を見る(06.6.10神戸)

 ようやくたどり着いたのが「ちきゅう」のブリッジです。海面からかなり高い場所にあるのですが、それだけではなく、前方にヘリデッキが張り出した特異な形状をしています。ブリッジから前方を見ると、空が見えないのでちょっと視界が窮屈な印象です。

広大な操舵室内部(06.6.10神戸) ズラリと並ぶパネル(09.2.15神戸)

 船体が幅広いだけに、操舵室も広いです。向こうの人が小さく見えます。

 2005年に就航した新しい船なので、計器類もデジタル化されて、CRT表示のものばかり。Windowsの画面が出ていたりすると、もしブルーウィンドウが出たらどうするんだろうとか、要らぬ心配をしてしまいます。

DPS(船位保持システム)操作盤(06.6.10神戸) スラスタスロットル(09.2.15神戸)
操舵スタンド(09.2.15神戸) レーダーの画面群(09.2.15神戸)

 DPS(船位保持システム)は、「ちきゅう」を支える最重要技術の一つ。深い穴を掘るためには長期間、同じ場所に船をとどめておく必要があります。しかし、海上では、潮流、風、波などなどの要因で、船の位置は絶えず変化しようとします。そこで様々なセンサーで船の位置を検出し、自動的に船の位置を維持するのがDPS。半径15m以内の精度で船位を維持できるそうです。

 DPSの要となるアジマススラスタは6機あるので、スラスタスロットルも6つのレバーと6つのメーターがあります。2009年2月の一般公開時は、調整中のためか、出力制限を示す注意書きが貼られていました。

 操舵室中央には操舵スタンドがあります。ゲーム機のハンドルのようです。

 右舷側にはレーダーのパネルがズラリと並んでいます。

海図台脇の本棚(09.2.15神戸) 操舵室内の神棚(09.2.15神戸)

 自動化の進んだ船ですが、操舵室の後方には海図台があり、紙の海図も広げてありました。海図台の横の本棚には、『天測歴』や『天測計算表』も並んでいました。個人的に気になったのは帝国書院の『新詳高等地図 最新版』。高校時代にお世話になった地図帳に、こんな場所で出会えるとは。

 そういえばブリッジの中には神棚もありました。向かって左側の熊野速玉大社の「なぎ護符」というのが、なんとも切実な願いです。

フジノン15×80双眼鏡(06.6.10神戸) フジノン15×80双眼鏡(09.2.15神戸)

 お約束の双眼鏡は、フジノンの15×80(受注生産品)。むかし懐かし「Meibo」ブランドの逸品です。2006年の一般公開時は屋外のウイングに設置されていましたが、2009年には船内に移設されていました。

左舷ウイング(06.6.10神戸) 右舷ウイング(09.2.15神戸)
丸い船首がよく分かる(06.6.10神戸) 「ちきゅう」の号鐘(06.6.17大阪)

ヘリデッキ

下から見上げるヘリデッキ(09.2.15神戸) ウイングからのヘリデッキ(09.2.15神戸)

 「ちきゅう」の外観を特徴づけているヘリデッキ。それは「ちきゅう」運用の特殊性も象徴しています。

 長期間、同じ場所にとどまって掘削作業を続けるという性質上、「ちきゅう」は人員交代のために帰港することが出来ません。そのため長期作業中の、研究者、技術者、船員の交代はヘリコプターで行います。なんとも船らしからぬ運用です。


 ふだんは見上げることしかできないヘリデッキですが、2006年6月の大阪寄港の折りに「空撮」しました。

 ヘリデッキは航海甲板のさらに上階、Comp Dk.(Compass Deck=コンパス甲板)より一段高い位置になっていることが分かります。○にHのヘリポートのマーキングと、ローマ字「CHIKYU」が描かれています。


 
 「空撮」といっても空を飛んだわけではありません。大阪では天保山に接岸したので、隣の観覧車(地上高112.5m)に乗れば、上から「ちきゅう」を見下ろせたのです。

 ところがこの日は悪天候。観覧車に乗った途端に雨が降り出し、しかも「ちきゅう」の方向が風上。あっという間に観覧車の窓は水滴だらけ。あ〜っとため息を吐きながら、15分間ぐるっと回って下りてきたのでした。


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(06.6.10・09.2.15神戸、06.6.17大阪/09.2.24記)

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