塩屋天体観測所|プラネタリウム・天文台訪問記
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(06.6.10・09.2.15神戸、06.6.17大阪/09.2.24記)
こちらでは「ちきゅう」の研究設備と船内設備を主にまとめてみました。
「ちきゅう」の最大の目的は、「コア」とよんでいる海底地層のサンプル採取です。深い穴を掘るのはひとえにこのためです。
ドリルパイプの中にサンプラーを降ろしてコアを採取し、また巻き上げます。サンプラー用の巻き上げ装置があるので、コア採取時にドリルパイプを引き上げる必要はありません。
コア試料切断場所(09.2.15神戸) | 1.5mのパイプ(09.2.15神戸) |
引き上げられたコアは通常9.5mの長さがあります。デリックから研究棟へのキャットウォークを通して運ばれ、研究棟へ入れる前に1.5mの長さに切断されます。この作業を行うのがコア試料切断場所(コア・カッティング・エリア)。
青いローラーの上を転がってきて、写真左の台座に固定して作業を行います。地下の圧力がそのままこもっている場合もあるので、ガス検知器や強制換気装置も配備してあるそうです。
仰々しいバイザーが並んでいると思ったら、そういうことだったのですね。(右写真:09.2.15神戸)
JAMSTEC印ヘルメット(06.6.10神戸) | 透明ゴーグル(06.6.10神戸) |
ちなみにこの場所、2006年の一般公開時は、JAMSTEC印のヘルメットと透明ゴーグルが並んでいました。
切断したコアは、最初にX線CTスキャナにかけられます。(右写真:09.2.15神戸)
コアの内部がどうなっているか外からの観察だけでは分からないので、非破壊検査で内部を確認して、その後の研究計画を立てるそうです。
基本的には病院などに置いてあるCTスキャナと同じもので、ソフトをコア分析用に書き換えてあるそうです。
微生物研究用の試料採取を行う部屋。微生物学ラボラトリーと一続きになっています。
地下深くの特殊な環境下(低温・嫌気(無酸素))で採取したコアなので、周囲からの汚染を防ぎながらサンプルを採取する装置がいろいろ用意されています。
圧力をかけて液体を絞りとる装置(09.2.15神戸) | He,Ar,CH4,CO2,N2のラベルあり。 ガスを満たす装置のようです(09.2.15神戸) |
嫌気グローブボックス(09.2.15神戸) | 嫌気グローブボックス(06.6.10神戸) |
工場のような風景(09.2.15神戸) | 冷凍庫?(09.2.15神戸) |
深海の暗黒で超高圧の環境下でも、微生物は棲息しています。ということで、掘り出したコアからの微生物を研究する部屋です。バイオハザードの警告シールなんて、私はあまり見る機会がありません。
オートクレープ(09.2.15神戸) | フリーズドライ装置(09.2.15神戸) |
オートクレープ(高圧装置)とフリーズドライ(真空凍結)装置。両方とも見かけは小型の洗濯機のようですが、やっていることはまるで反対です。
実体顕微鏡(06.6.17大阪) | 倒立顕微鏡(06.6.17大阪) |
実体顕微鏡(09.2.15神戸) | 顕微鏡(09.2.15神戸) |
顕微鏡はツァイス製ばかりです。2006年に見たときより種類が増えていましたが、増えた分もツァイス製でした。星好きにとっては、プラネタリウムや天体望遠鏡・双眼鏡のイメージが強い会社ですが、たしかに顕微鏡も光学機器。
コア半裁室(06.6.17大阪) | 違う扉から覗いてみる(09.2.15神戸) |
1.5mの長さに切断されたコアは、CTスキャンにかけたり、表面から出来る観察や分析を済ませた後、竹を割ったように2つに切断されます。
片方は保存用、そして残り半分を船内研究用に使うそうです。右写真は切り立てホヤホヤ? のコア。(右写真:06.6.17大阪)
こちらは「XRFコアロガー」。蛍光X線でコア表面の元素の定量分析を行うそうです。試料にX線をあてると、特有のエネルギーの蛍光X線が返ってくるので、それでどんな元素が含まれているかを判別するそうです。(右写真:09.2.15神戸)
実際に採取したコアのサンプルも展示されていました。(右写真:09.2.15神戸)
奥が「日本海」、中央が「伊豆−ボニン−マリアナ」、手前が「南海トラフ」。伊豆−ボニン−マリアナの「ボニン」は小笠原群島の英語名。
南海トラフのコアが、砂利のように小石だらけになっているのが目を引きます。南海トラフはフィリピン海プレートがユーラシアプレートに潜り込む現場で、東海・東南海・南海地震といった巨大地震の原因となる大活断層です。
断層の境界では地層が強い力を加えられるので、岩石が砕けてボロボロになります。ちょうどその現場を採取したサンプルというわけです。
地震のメカニズムを探ることは、「ちきゅう」のミッションの一つになっています。
コアを並べるトレイ(09.2.15神戸) | 2006年に公開されていたコア(06.6.10神戸) |
2006年の一般公開の時は、泥や砂が多く混じったコアばかりが展示されていました。まだ本格的な掘削を始める前だったので、試験的に採取した浅い部分のものだったのでしょう。
磁気シールドルームの入口(06.6.10神戸) | 測定器(06.6.10神戸) |
「ちきゅう」の船内には磁気シールドルームがあります。世界で初めて船上に設置されたもの。入口の扉が他の部屋に比べて、とっても分厚いつくりです。
地球の磁気は数十〜数百万年ごとに、N極とS極が逆転しています。コアの中に磁性鉱物があると、その地層が出来た年代の地磁気の極性を保存しているので、そのパターンを調べることによってコアの年代を測定できます。
掘削の様子をビデオ上映(06.6.17大阪) | 奥は図書室兼用(06.6.17大阪) |
ビデオ・シネマルームでは見学者向けに、掘削やコア採取の様子をビデオ上映していました。2009年2月の神戸での一般公開時は、見学者数が多かったためにコースから外されていましたが、上映されていた解説用ビデオは「ちきゅう」のウェブサイトで公開されています。
・CHIKYU HAKKEN|ちきゅうの科学技術|地球深部まで掘る
ちなみに通常は乗員向けの上映会が行われているようで、2006年6月17日に掲示されていた作品は「レインマン」でした。渋い。(右写真:06.6.17大阪)
写真のドアの向こうが食堂。(右写真:09.2.15神戸)
24時間稼動の船なので、食事の時間は一日4回設定で、基本的にカフェテリア方式。起きている時間にあわせて食べるので、一人が4食とるわけではありません(食べてもいいのかな?)。
乗員が多国籍ということもあり、宗教上の理由などで食事に制限がある人もいるので、食べたい物を選んでとるのが無難な方式のようです。
割と広めの診察室(09.2.15神戸) | クリニックのプレート(06.6.17大阪) |
ひろくてガランとした感じです。
居室の様子(09.2.15神戸) | デスクの周辺(06.6.17大阪) |
部屋の呼称はどれ?(09.2.15神戸) | 船だけに救命胴衣は居室に装備(06.6.17大阪) |
居室はほぼ個室。古い船は相部屋が基本なのですが、JAMSTECの研究船は年代が新しくなるにつれて個室率が上がり、「ちきゅう」ではほとんどの居室が個室になっています。船上生活の期間も長いですし、女性研究者も多い時代ですから、個室化は時代の流れでしょう。
船内LAN、電話、シャワートイレ付で、ビジネスホテルみたいな印象。ただし部屋の広さはさほどでもありません。
ボタンがいっぱいのエレベーター。船の巨大さが伺えます。
下から、3rd(第三甲板)→2nd(第二甲板)→Upp(上甲板)→A(A甲板)→B(B甲板)→C(C甲板)→D(D甲板)→Nav(航海甲板)→Comp(コンパス甲板)。都合、9階建てということになります。
これは居住区やブリッジがある部分のエレベーターですが、研究区画はフロアに違う名前が付いています。
それにしても、9階建てとは改めて巨大な船です。
2006年は9枚(06.6.10神戸) | 2009年は11枚(09.2.15神戸) |
食堂の前の通路には、寄港した港から贈られた記念の盾を展示するコーナーがありました。左が2006年、右が2009年。あちこち出かける船ではないので、あまり増えていません。
2009年の写真には、一番左上がIODP(統合国際深海掘削計画)。そこから下に横浜、名古屋、横須賀、土佐、宿毛、四日市、神戸、新宮、八戸、大阪の各港の盾が写っています。
カラフルなゴミ箱群(09.2.15神戸) | 分別のシール付き(09.2.15神戸) |
デッキに並んでいるカラフルなゴミ箱。フタには種別を示すシールが貼ってありました。ちゃんと分別回収しているのですね。
ちなみに青が「AEROSOL(スプレー缶)」、黒が「OILY RAGS(油のぼろ切れ)」、黄色が「PLASTIC(プラスチック)」、赤が「BURNABLE(可燃ゴミ)」。やっぱり一般家庭とはちょっと違うようです。
冷却パイプ付き搭載艇(09.2.15神戸) | これに75人は窮屈だなぁ(09.2.15神戸) |
15000KGの巨大な碇(09.2.15神戸) | このテープいいなぁ(09.2.15神戸) |
オレンジ色に塗られた救命ボート。屋根の上に2本巡っているパイプは、火災等に備えた冷却用とのこと。逆に言えば、「ちきゅう」から退船する事態というのは、ガス爆発とか、相当危険な状態が想定されているわけです。密閉構造なのもうなづけます。
船首の碇は、15000KGと刻んでありました。15トン……ですか。
2006年の神戸、大阪での一般公開は、けっこう余裕を持って見学することが出来たのです。前回の神戸では事前申込制だったのですが、予約が少なかったのか、当日の飛び込みもOK。待ち時間もゼロ。大阪も似たようなものでした。
こんな看板が登場(09.2.15神戸) | いやはや(09.2.15神戸) |
なんじゃこれは(09.2.15神戸) | 見ろ、人が……のようだ(09.2.15神戸) |
2009年2月15日の神戸での一般公開。まさかこんなことになるとは。10時半に現地について、乗船したのは12時50分。大人気でした。
一般公開を終えた「ちきゅう」は 2月15日22時、神戸港を離れました。大阪湾と駿河湾で試験を行った後、5月から再び、紀伊半島沖の南海トラフで掘削を始めるそうです。
近い将来、海底1万メートルへ挑む日もやってくるのでしょう。ぜひ、マントルの生の姿を見てみたいものです。
(06.6.10・09.2.15神戸、06.6.17大阪/09.2.24記)