塩屋天体観測所|プラネタリウム・天文台訪問記
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(06.6.10・09.2.15神戸、06.6.17大阪/09.2.24記)
「ちきゅう」を特徴づけるのは、なんといっても巨大なデリック(掘削やぐら)です。掘削用のパイプをつないだり、外したり、吊り下げたりする場所です。ここでパイプをつないで、長い棒にしてから上げ下ろしをするため、この高さが必要というわけです。海水中で浮力が働くとはいえ、膨大な長さのパイプを降ろすために、1,250トンの吊り下げ能力があります。
デリック直下(09.2.15神戸) | デリック最上部(06.6.17大阪) |
デリック直下には「ムーンプール」と呼ばれる開口部があります。ここから掘削用のパイプを降ろします。左写真中央上部からちょこんと飛び出ている細い棒がドリルパイプの先端です。
右写真はデリック最上部。黄色く塗られた巨大な滑車が写っています。手すりも付いているのですが、海上でここに登って作業することもあるのでしょうか。
デリック中央部(09.2.15神戸) | 後方から船体を見る(06.6.10神戸) |
左写真の中央、滑車の下に移っているのがパワースイベル。これでドリルを回します。電動モーターだそうです。
このデリックは左右非対称の構造です。真後ろから見ると微妙なアンバランス感がたまりません。
ドリルビット(09.2.15神戸) | ドリルビット(06.6.10神戸) |
ドリルの先端に付くのがドリルビット。地球掘削の最先端です。海底の地層の性質によって、様々な種類のものを使い分けます。ものによっては突起にダイヤモンドを埋め込んであるものもあるのだとか。一つ数百万円の消耗品です。
ドリルビットをドリルパイプの先端に付けたのがこの状態。手すりにかかって分かりにくい写真でごめんなさい。(右写真:09.2.15神戸)
ビットの交換時にはパイプを全部引き上げることになるのですが、4,000mの場合で6時間かかるそうです。つないだパイプをバラして片付ける作業が同時進行ですから、省力化されているとはいえ、気の長い作業です。
ドリルパイプは1本9.5mなので、4,000mだと421本。実際は4本一組38mの棒で作業を行うので、作業時間を6時間とすると3分半に一組分を引き上げていることになります。そう考えると、けっこうなハイペースです。
船と海底をつなぐのがライザーパイプ。海底に設置されるのは噴出防止装置。掘削中に万が一、石油やガスが吹き出した場合、それをくい止めるためのものです。
ライザーパイプの群れ(09.2.15神戸) | ライザーパイプの接合部(09.2.15神戸) |
ライザーパイプ接合面(09.2.15神戸) | ライザーパイプ緩衝部(09.2.15神戸) |
ライザーパイプは内径50cm。この中をドリルパイプが通ります。
内側のドリルパイプを通して、「泥水」を船上からドリルの先端に送り込みます。泥水で圧力をかけて掘った穴が崩れるのを防ぐとともに、削り屑を排出する役割も担います。
削り屑を含んだ泥水は、外側のライザーパイプを通して船上に戻ります。この削り屑を分析することで、掘削の状況も分かります。石油やガスなどを含む、危なそうな地層も、こうして事前に察知します。
「泥水」とはいいますが、いわゆるドロ水ではなく、右写真のような液体です。これもきっと技術の固まりなのでしょう。(右写真:06.6.17大阪)
右写真の真ん中に写っているのが「噴出防止装置」。掘削時にはこれが海底面に設置されます。
高さ14.5m、縦5.9m、横5.2mで、重量が380トンあります。(右写真:09.2.15神戸)
地球に穴を掘っていて、一番危ないのが石油やガスの噴出事故。穴と船がパイプでつながっているので、超高圧の石油やガスに行き当たったら、一気に逆流して大惨事になりかねません。
ということで、この噴出防止装置には何重もの安全弁が付いていて、万が一の際には、ここで石油やガスをシャットダウンします。
もっとやばいときはパイプを切って逃げるそうですが、そうならないように泥水の掘削片を分析して状況を把握したり、この噴出防止装置があるのです。
ライザーテンショナー(09.2.15神戸) | ライザーテンショナー(06.6.10神戸) |
「ライザーテンショナー」は海中に降ろしたパイプを支えるための装置。潮流などでパイプが動いたり、自重で変形したりするのを、このダンパーで吸収します。
空気圧で動かしているとのことで、船内にはライザーテンショナー用のエアタンクがズラリと並んでいる区画がありました。最初はこれがパイプかと思いました。(右写真:09.2.15神戸)
パイプラック(06.6.10神戸) | パイプラック(09.2.15神戸) |
パイプラック(06.6.17大阪) | パイプラック(06.6.17大阪) |
ライザーパイプは1本27m。2,500mの海底まで降ろすには92本、4,000m降ろすには148本必要です。
ドリルパイプは1本9.5m。海面から海底まで2,500mとして、海底から7,000m掘ると、合計9,500m。ということは1,000本のドリルパイプが必要です。
このほか、掘った穴の内側に挿入し、掘削孔を保護する「ケーシングパイプ」というものも使います。
そんなこんなで、膨大な量のパイプを使う「ちきゅう」は、パイプの山だらけです。
船の後ろ半分だけ見ると、まるで鋼管輸送船かという雰囲気です。
パイプを吊り上げるためのクレーン(09.2.15l神戸) | こちらは船尾側(09.2.15l神戸) |
手前の人と比べるとクレーンの 巨大さが分かります(06.6.10神戸) |
パイプトランスファーシステム(06.6.10神戸) |
縁の下の力持ち、というよりデッキの上の力持ちのクレーンです。地道にパイプを運び続ける、でも重要な役回り。下からは小さく見えますが、実はとっても巨大です。
パイプトランスファーシステムはハイプを運ぶ列車のようなもの。これがキャットウィークを行き来して、デリックにパイプを送り込みます。
工場のような風景(06.6.10神戸) | 泥水などの配管(09.2.15神戸) |
掘削に使う泥水も船内で調合したり、濾過したりしています。その他、いろいろな配管が巡り巡って、化学工場のような雰囲気の場所もあります。
海外からの乗組員の姿も、割と良く見掛けます。
「ちきゅう」の運行は民間に委託されているのですが、この方たちは掘削の専門員らしく、石油採掘の現場を渡り歩いているプロだそうです。技術的には同じようなことをやっているのだとか。
そういえば地球への衝突軌道に乗った小惑星を爆破するために、石油採掘の人たちが活躍する映画がありましたっけ。
「ちきゅう」の場合は科学採掘ですが、人類の最前線の仕事であることは共通しているかもしれません。
(06.6.10・09.2.15神戸、06.6.17大阪/09.2.24記)