塩屋天体観測所|プラネタリウム・天文台訪問記
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タイトルでは「野辺山電波天文台」としていますが、同じ敷地に「野辺山宇宙電波観測所」「野辺山太陽電波観測所」も同居しています。二つまとめて「国立天文台野辺山」なんてよんでいます。
電波も光の仲間なので、宇宙空間からはいろいろな電波が飛んでいます。それを観測して研究するのが電波天文学なのです。
ここの目玉はなんといっても45mミリ波電波望遠鏡。傍目にはただのパラボラアンテナなのですが(実際にパラボラアンテナそのものですが)、1982年の完成以来、世界第一級の性能を維持し続け、ミリ波電波天文学をリードしてきた立て役者です。
公共交通機関ではJR小海線野辺山駅から約1.5km。徒歩40分ほどです。
野辺山電波天文台は年末・年始以外、構内の自由見学ができます(冬に行く人がいるのだろうか)。今でこそオープンな研究施設も増えてきましたが、当時としては画期的なことだったと思います。
電波望遠鏡は、直接、星を見ることが出来ませんし、けっこう専門的な施設だと思うのですが、私は訪問した日も、夏休みとはいえ平日なのに、どうみても普通の観光客(家族連れとか若いカップルとか)でにぎわっていました。
宇宙電波観測所と太陽電波観測所が同居 |
守衛所 |
入口の守衛所で記帳を済ませると、パンフレットを頂いて構内に入ります。
構内案内看板(まだ文部省時代だ) |
見学ルートはオレンジ部分 |
地図の左下が入口、中央上部の円が45m電波望遠鏡です。この間が約600m。よりみちしたりしていると、往復1.5〜2kmくらいは歩くことになります。
果てしないように見える道。600mといっても、直線なので、意外に長く感じます。でもそれをものともさせないワクワク感。
アンテナ直径:10m
アンテナ数:6台
観測周波数:80-230GHz
解像力:最高0.0003度(視力60相当)※1秒角です。ちなみに視力1.0で1分角。
まず出迎えてくれるのがミリ波干渉計。
望遠鏡は光学でも電波でも、口径が大きいほど、より細かい部分を見ることが出来ます。が、あまり大きなものは建築的に無理ですし、制度を維持するのも大変です。そこで考えたのが、距離を置いたアンテナをケーブルでつないで、大きな口径の望遠鏡と同じ解像度を得る方法です。
野辺山では最大、口径600m相当の分解能を得ることが出来るようになっています。1982年に観測を開始した当時は10m×5基でしたが、1993年に6基目のアンテナが追加されました。
とっても幅広ゲージのレール |
東西-南北の分岐点にある 巨大ターンテーブルと簡素な信号機 |
格納庫にある黄色い車両がパラボラ運搬台車 |
45mが親分で、10mは子分に見えます |
10mアンテナは台車に乗せて、あちこち移動できるようになっています。観測目的によってアンテナの配置を変えるためです。上から見ると「ト」の字型にレールが敷かれていて、レールに沿って置かれた台座にアンテナを設置します。アンテナの配置はいくつか基本パターンがあるのですが、この日は一番密集した「D配列」になっていました。
アンテナ方式:カセグレン変形クーデ方式
アンテナ直径:45m(面積1,590平米)
鏡面誤差:0.1mm以下
観測周波数:20-230GHz
解像力:最高0.004度(視力4相当)※15秒角
重量:700t
1982年に完成した日本最大の電波望遠鏡。「ミリ波」と呼ばれる波長が数mmの電波を観測するために建設されました。直径45mの口径と、ミリ波観測のための鏡面精度(鏡面誤差0.1mm以下)を達成するために並みならぬ苦労があったそうです。
「自重によるたわみ」「気温による膨張」「風」などなど、ちょっと考えただけでも0.1mmなんてすぐにずれてしまいそうです。そこを、骨組みの構造で自重による変形の影響を少なくしたり、鏡面裏の断熱材と空調ファンで温度差を少なく保ったり、また鏡面を構成するパネルをモーター制御して常に精度を維持します。
なんでも0.1mmの精度を計測できるセンサーがなかったので、その開発から始めないといけなかったとか。現在は人工衛星からのビーコン電波を利用して、鏡面誤差を計測しています。
ちなみに「風」だけは今でも弱点だそうです。
携帯電話厳禁 |
いよいよ来ました45m |
はるかかなたの星の電波はとっても微弱なもの。携帯電話の電波に簡単に埋もれてしまいます。電波望遠鏡の観測は、ある意味、ノイズとの戦いでもあります。
この日の45m鏡は真上を向いたまま。観測お休みの日だったのか、左の写真の看板の脇には「今の期間は携帯電話使用可能です」とわざわざ但し書きが書いてありました。
逆に言えば、ふだんは本当に、携帯電話厳禁なのですね。
パネルで覆われた45m鏡背面 |
東京天文台の時代に建設されました |
骨組みが露出した臼田の64m鏡と違って、野辺山の45m鏡は背面もパネルで覆われています。前にも書いたとおり、鏡面精度を維持するための温度管理の必要性からです。なんとなくずっしりした雰囲気をかもし出しています。
架台には銘板が付けられています。製造元は三菱電機。すばる望遠鏡と一緒です。製造年月が1980年9月で完成年月が1981年12月。国立天文台のサイトでは1982年完成となっているのですが、これは運用開始が1982年ということなのでしょうか。
一般見学者が通常立ち入ることが出来るのは、パラボラ周囲の円周道路まで。年に一度の特別公開では、内部も公開されます。ぜひとも機会に恵まれたいものです。
パラボラのすぐ近くにあったので、いったい何の道具だろうと思ったのですが、ふつうに牧草ですね。さすが野辺山、のどかです。
(2006.8.21訪問/2007.7.15記)