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太陽の拡大写真はminiBORG60ED+NikonD5000で撮影しています。左は10:00、右は10:05。10:05の写真は、上側がほんの少しだけ欠けています。
いよいよ日食が始まりました。
食の始めのうちは、まだまだのんびりとした雰囲気です。ちょっとブラック星博士さん? そこビデオカメラの上ですよ。10:10、その頃の太陽はお煎餅を一口かじったような欠け具合。
左は10:20、右は10:30。意外に早いスピードで欠けた部分が大きくなっていきます。
日食観察の方法として、定番となったピンホールの太陽像。10:31撮影。船のデッキに投影してもよいのですが、写真に撮る場合は白い紙を敷くと、格段に写りが良くなります。
右はコンパクトデジカメに日食メガネを被せて撮った太陽像(ピクセル等倍にトリミング)。10:33撮影。コンパクトデジカメでも、露出補正ができれば、それなりに太陽を撮ることができます。普通に撮ってしまうと背景の暗い空に露出を合わせて太陽が露出オーバーになってしまうので、2〜3段階マイナス補正をかければ上手くいくことが多いです。
望遠鏡を並べていたせいか、「詳しい人」だと思われたみたいで、周囲の方にいろんなことを訊ねられてしまいました。間違ったことを言ってなければいいんですけど。
左は10:50、右は10:55。この日は決して晴れっぱなしではなく、部分食中は時折、太陽の前を厚い雲が通過していきました。たぶん大丈夫だとは思うのですけど、一抹の不安がないではありません。
よくよく観察してみると、一つの雲の固まりが太陽の前を通過するのにかかる時間は1分前後。だから最悪の場合でも、皆既中ずっと雲に隠れっぱなしということはなさそうです。ちょっと安心。
手前のプールにご注目。いつの間にか転落防止ネットが外され、浮き輪が浮かんでいます。
船内の案内で、22日のプールの営業時間は9:00〜17:00とあったのですが、プールサイドで観測準備をしている中、クルーがやってきて、ネットを外して浮き輪を置いていったのにはびっくりしました。いや、いくら何でも今日はプールに入る人いませんってば。少なくとも日食が終わるまでは。
この写真、丸い街灯の下、遠方に船が写っています。このときは船名までは分からなかったのですが、後からコスタ・クラシカと教えて頂きました。このあと、右舷からふじ丸を抜いて前方へ進んでいきます。
※帰宅してからコスタ・クラシカの航程を調べたのですが、7月20日に鹿児島出港→鹿児島付近で皆既食観望の予定を小笠原に変更→7月24日神戸港着だったようです(参考:神戸市記者発表資料)
10:58のプールサイドの風景。太陽が天頂間近なので、望遠鏡もカメラもみんな上を向いています。煙突前の日陰は、みんなの避難場所として大人気。私も撮影の合間は、待避させてもらいました。
11:05の太陽の写真。何かしっくりきません。
撮影した画像を拡大表示してみると、おっと、ピントが甘い。日食前にテスト撮影して、そのあとピントがずれないよう、望遠鏡の合焦部をガムテープで固定して置いたのですが……うーん、いつの間に動いてしまったのか。
皆既まであと20分しかありません。ピントが甘いといっても、縮小表示なら気が付かない程度のものです。このタイミングで下手に動かして失敗したらアホです。うーん、どうしよう。
ここは意を決して、再度、ピントを調整します。デジタル一眼レフのライブビュー画面とにらめっこしながら、望遠鏡のヘリコイドを少しずつ回します。
11:10の写真。ほんの少しの違いですが、太陽の縁がすっきり写っています。よかった、皆既前に対応できて。
なんとなく辺りが薄暗くなっていることに気付きます。太陽が頭の真上にあるのに日差しが弱く感じます。デジカメでは露出を自動設定してしまうので、写真はあえて露出不足気味に撮影したもの。私はこんな感じに見えていたのですが、これは「明るさが違うようには感じなかった」という人もいたので、感じ方に個人差があったのかもしれません。
デッキを吹き抜ける風も、いつの間にか蒸し暑さが消え、肌に当たる空気が涼やかに感じます。こちらは近くにいた人と意見が一致。食の進行に従って、気温も下がってきたようです。
11:20撮影。太陽はほとんど三日月状になりました。スタッフのアナウンスでは、第二接触(皆既食の始め)は11:25過ぎ。そろそろ皆既に備えた準備です。
という流れですが、果たして上手く行くかどうか。
コンパクトデジカメをミニ三脚に乗せて、動画の撮影を開始します。画角は35mm判換算で35mm相当。水平線が入れば本影錘の移動が分かって面白いのですが、無理なので、望遠鏡を入れて風景っぽい構図にします(左写真/動画からキャプチャー)。
皆既中の音を拾うために、携帯電話のボイスレコーダーをONにして、三脚に乗せておきます。
撮影用の望遠鏡のフィルターホルダーのストッパーを解除。ストッパーというと格好いいですが、開き止めの洗濯ばさみを外しただけです(右写真)。
空を見上げると、飛行機が飛んで……いや、飛行機にしては動きがありません。あ、金星だ! 深みを増した青空に、ぽっかり金星が浮かんでいます。
11:25撮影の太陽。ほとんど糸のような細さです。
プールサイドでは時刻を読み上げる人がいなかったので、自分でタイミングを計らなければなりません。ここまで来たら、撮影用望遠鏡の減光フィルターは外しても大丈夫(右写真)。
デジカメのモニタを覗くと、すでにうっすらとコロナが浮かび上がっています。ダイヤモンドリング!
カシャン、カシャン、カシャン、カシャン、カシャン、カシャン、カシャン……
デジカメの連写の音が響きます。フィルターを外すタイミングを伺う周囲の声。そして歓声。
意外と長く感じるこの時間、フィルターを外してから30秒ほどの出来事です。
光球の最後の光もまもなく月に飲まれます。
そして、来た!皆既食の始まりです!
2009年7月22日11:25。小笠原・北硫黄島東方沖の「ふじ丸」船上にて撮影。
光球が月に飲まれる最後の瞬間。赤い帯は彩層、4時と7時半の方向にプロミネンスが見える。
miniBORG60ED直焦点(D=60mm,f=350mm)+Nikon
D5000。
ISO400,露出1/2000秒,トリミング済。
周りに歓声が響く中、最初のダイヤモンドリングの撮影を終えてはじめて頭上を見上げます。
中天に大きな黒い太陽と淡く明るく広がるコロナ。やたらと存在感が抜群で、太陽と月が普段の何倍もの大きさにも感じます。もちろん感覚的なもの。周囲からワンテンポ遅れて「うわぁ」と声をあげます。
皆既中の空の色は真っ暗ではなく、夕暮れ時のような深い青。コロナはよく言う真珠色(他に上手い例えが見つかりません)。外側になるにしたがって青い空に溶け込んでいき、月の部分だけが真っ黒に抜けて不気味なようにも思えます。
あらかじめ敷いていたマットに寝ころんで双眼鏡を構えたのですが、雰囲気に飲まれたのか、普段の手ブレではなく、手がガクガク震えて、まともに像が定まりません。落ち着けと思っても、肘から先の腕の震えが止まりません。
船の周囲を見渡すと、水平線に沿った全周が、赤く夕焼けのように染まっています。夕焼けなら西の空だけに見えますが、360度全周が夕焼け状です(写真は明石市立天文科学館・鈴木康史さん撮影)。
改めて空を見上げると、先ほどから見えている金星のほか、太陽のそばに水星、そして南天にシリウスが見えています。カノープスは探しても見つかりません。私が確認した星はこれだけ。人によってはカノープスの他、オリオン座のベテルギウス・リゲル・三ツ星、ふたご座のカストル・ポルックスも確認された方もいるようです(上写真はデジカメの動画からキャプチャ)。
時計を見ると11時27分。皆既開始から2分経過。露出を変えながらの写真撮影に移ります。
カメラの設定は事前にメモしてボードに貼って置いたのですが、これは間違わずにセットできました。何枚かシャッターを切っているうちに、露出の設定を変えるダイヤルを回す指がガクガク震えてきます。
事前に何度か、月や、暗くした部屋でカメラ操作の練習していたこともあり、それでもなんとか、撮影を終えました。後で確認したら16ショットのうち2枚ミスしましたが(露出間違え1枚と、構図外れ1枚)、まずは良し。後で聞いたところでは、暗闇でカメラの操作が出来なかった方もいらしたそうです。
2009年7月22日11:28。小笠原・北硫黄島東方沖の「ふじ丸」船上にて撮影。
miniBORG60ED直焦点(D=60mm,f=350mm)+Nikon
D5000。
ISO400,露出1/60秒,トリミング済。アンシャープマスク処理。
2009年7月22日11:29。小笠原・北硫黄島東方沖の「ふじ丸」船上にて撮影。
地球の照り返しで月の模様が見える「地球照」が写っている(コロナが明るいので、肉眼では見えない)。
miniBORG60ED直焦点(D=60mm,f=350mm)+Nikon
D5000。
ISO1600,露出1/8秒,トリミング済。トーンカーブ補正。
このあと一眼デジカメを動画に切り替えますが、ここで感度の修正を忘れます。現場で様子を見て調整するつもりだったのが、すっかり頭から飛んでいて、想定より暗めの動画になっていました。これは、まぁ、内部コロナを狙ったということにしておきます。
その後、再びマットに寝ころんで双眼鏡を構えます。手の震えが止まらなかった双眼鏡ですが、ようやく落ち着いてきたのか、なんとかブレのない視野での観察が出来るようになりました。
コロナの写真はたいてい周りの空が黒く映っていますが、あれは写真の限界で、肉眼では深い青色の空をバックにコロナの光が見えています。双眼鏡で見る内部コロナは磁力線のような筋を描いていますが、外部コロナの構造は私の肉眼では分かりません。強いて言えば東西に長かったのかなという程度。 双眼鏡でプロミネンスを見た人もいるようですが、これも私は気付きませんでした(第二接触時の写真には何ヶ所か写っています)。
双眼鏡で見るべきものを見た気分になり、肉眼で空を見上げます。太陽の東西でコロナの膨らみが不均等になり、食が後半に差し掛かったことを知らされます。
やがて太陽の西側に赤い光。彩層です。これが今回一番印象に残っています。かなり長い間見えていたような気がしましたが、それも数秒のこと。
来た!
第三接触のダイヤモンドリング。
鋭い光はじわじわと長く輝くように思いながらも、あっという間に周囲は明るさを取り戻します。
沸き上がる拍手。そして我に返ったところで、再びの拍手。
皆既の後も金星だけが青空にポツンと輝いています。周りを見渡せば、魂を抜かれたような人々の群れ。
長いと思った6分37秒の皆既食も、終わってみれば本影錘もシャドーバンドも見忘れていました。
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(2009.8.9記 福田和昭)